95歳まで生きるには夫婦で2千万円の蓄えが必要とした金融庁の金融審議会報告書を受け、国民の間で年金制度への不安や不信感が広がっている。

 与党は公的年金制度の持続性を訴えるが、野党は「100年安心はうそだった」と批判しており、参院選の主要争点となるのは確実だ。

 報告書を巡っては、麻生太郎金融担当相が自ら諮問しておきながら「世間に不安や誤解を与えた」として受け取りを拒否したこともかえって不信を増幅させた。

 選挙への影響を警戒しての受け取り拒否だったことは否めず、年金頼みの限界を直視した報告書の問題提起まで封殺した対応は、無責任といわれても仕方がない。

 安心な老後生活が送れるかどうかは国民の切実な問題であり、不都合な事実から目をそらすようでは解決はおぼつかないだろう。

 不足分は2千万円よりさらに膨らむとみる専門家も多い。報告書の試算では、住居費などが低く抑えられているほか、現役世代の減少や平均余命の延びに伴って給付水準を抑える「マクロ経済スライド」も織り込まれていないためだ。

 そもそも2千万円不足するといってもあくまで平均値。収入が少ない人は年金給付額が低く、不足はさらに膨らむ。医療費や介護費がかさむ人ならなおさらだ。

 自民党は年金積立金運用益の増加などで年金財政の基盤は強固だとし、「人生100年型の年金」の実現を公約に盛り込んだ。

 だが年金財政の健全性を検証する5年に1度の「財政検証」について政府は公表を参院選後に先送りする方針だ。少子高齢化に伴う将来の給付水準低下が見込まれるため、選挙への影響拡大を避けた形だ。

 野党は低年金者を意識した対策が目立つ。世帯年収に応じて医療費などの上限を決める「総合合算制度」の導入を掲げる立憲民主党、年金水準を下げるマクロ経済スライド制度をやめて「減らない年金」をうたう共産党、無年金を防ぐ最低保障年金制度の導入を目指す社民党などだ。

 日本維新の会は年金を自身の保険料で賄う「積み立て方式」を提案した。

 老後の安心を築くためには、年金だけでなく、高齢期の安定した雇用や住宅政策、医療・介護などを含めた総合的な政策の充実が要る。各党は現実を踏まえたビジョンと実現の道筋を具体的に示し、論戦を深めてもらいたい。