裁判所の差し押さえを受けて、初代桂春団治が自分の口に封印の紙を貼ってみせた。「この家で金目のものはこれだけや」と言ったかどうか、伝説の多い浪速の爆笑王である▼史実に一番近いといわれる大阪の詩人・小説家、故富士正晴氏の評伝によると、差し押さえを申し立てたのは当時の吉本興業部とある。専属契約でラジオへの無断出演を禁じているのに、春団治が落語放送をやってのけた▼呼び出しに応じない春団治に業を煮やし、多額の借金を肩代わりしていたことから差し押さえに出たが、騒ぎの元は契約にある。昭和の初期、台頭するラジオに対抗する囲い込みが、八方破れの春団治には我慢ならなかったようだ▼この評伝を読んでいる最中、芸能契約が見直されるという記事が目に入った。芸能事務所でつくる日本音楽事業者協会が、芸能人の移籍をめぐるトラブル防止のため、本人の意思に反する契約延長を制限するという▼「不当な囲い込み」の是正を公正取引委員会から求められており、ようやくの感がする。それでも移籍金を支払えば契約を終了することもできる。タレントがテレビから姿を消し、ファンが悲しむことはなくなる。芸能人に自由で公正な競争が求められる時代だ▼ちなみに春団治の葬儀は吉本興業が行ったと評伝にある。