トランプ米大統領が、香港の自治や市民の自由を支援する「香港人権・民主主義法案」に署名し、同法が成立した。

 米政府は、中国が香港に高度な自治を保障する「一国二制度」を守っているかを毎年検証し、人権侵害に関与した者には、米国への入国拒否や資産凍結の制裁を科すことが可能になる。

 民主化を求める香港の市民からは歓迎の声が上がるが、中国は外務省声明で「内政に関する重大な干渉だ」と強い不満を示し、報復措置を取ると表明した。

 米中両国は人権問題でも火種を抱えることになった。大詰めを迎えている貿易交渉の行方にも、不透明感が高まったといえよう。

 人権法案は共和、民主両党の超党派議員が提出し、上院は全会一致、下院も圧倒的多数で可決している。トランプ氏が拒否権を発動しても、上下両院で覆されることはほぼ確実だった。

 大統領選を控え、貿易交渉で成果を得たいトランプ氏としては、中国を刺激したくなかったのが本音だろうが、自由や人権を軽視する同氏の外交姿勢に危機感を持つ議会に押し切られた形だ。

 議会で進むトランプ氏のウクライナ疑惑を巡る弾劾調査も、法案成立を後押ししたとみられる。

 トランプ氏が訴追されれば、弾劾裁判は与党共和党が多数を握る上院で始まる。署名の拒否で共和党議員の離反を招きたくないとの計算が働いたとみるべきだろう。

 トランプ氏の足元を見透かすように、中国は香港問題と貿易協議を切り分ける構えを見せている。米国との貿易摩擦の長期化が、自国経済の下振れにつながっているためだ。

 人権法の成立が確実となった22日に米政界重鎮と面会した習近平国家主席は、「米中関係を友好的な方向へ進めるために動いてほしい」と要請したという。

 懸念されるのは、肝心の香港の人権保護や民主主義の実現が置き去りにされることだ。

 トランプ氏は署名後の声明で、「外交における大統領権限」を強調し、早くも法律の履行を一部見送ることを示唆した。人権法の運用を対中貿易交渉の「外交カード」としてはならない。

 先の香港区議選では民主派が圧勝し、新疆ウイグル自治区での少数民族弾圧に対する国際社会の目も厳しくなっている。

 中国も、高圧的な政策が裏目に出ていることを自覚しなければならない。