安倍晋三政権の外交政策で、前進が見られないのが北朝鮮との関係だ。

 最大の懸案である日本人拉致問題では、2014年5月のストックホルム合意で北朝鮮に被害者の再調査を約束させた。だが、5年が過ぎても解決への道筋が浮かんで来ない。

 こうした中、今年5月、首相は金正恩朝鮮労働党委員長との日朝首脳会談について、無条件開催を目指す方針を明らかにした。

 これまでは拉致問題の進展を事実上の開催条件と位置づけていた。重大な方針転換である。

 首相は従来方針と矛盾しないと説明するが、北朝鮮をめぐる国際情勢が変化し、会談実現のハードルを引き下げざるをえなくなった、というのが実情ではないか。

 北朝鮮の核問題に関する6カ国協議国のうち、金氏と会談していない首脳は安倍首相だけになっている。一方、金氏はこの間、中国やロシアの首脳ともトップ対話に臨み、6月30日には3回目の米朝首脳会談も実現した。

 日本は米国のトランプ大統領を通じて拉致問題解決の必要性を北朝鮮に迫ってきたが、現状では孤立しかねないと判断した。

 拉致被害者の家族が高齢になり、残された時間が限られてきたという事情もある。

 安倍政権は、首脳会談が実現すれば、日朝平壌宣言(02年)に基づき国交正常化を目指すことや、北朝鮮から求めがあれば、植民地支配をめぐる「過去の清算」についても協議するという。

 膠着(こうちゃく)する事態を前に、トップ同士の直接対話で打開を試みることは重要だ。

 ただ、いまのところ北朝鮮は会談に応じる気配を見せていない。

 北朝鮮側の最大の関心事は、トランプ米大統領から制裁解除を引き出すことにある。

 ここは、直接対話を焦らず、米朝の実務協議の進展を後押しすることが肝要ではないか。

 参院選では、自民党が「制裁措置の厳格実施とさらなる制裁の検討」を公約に掲げるが、安倍首相の方針転換と食い違っていないか。

 立憲民主党は北朝鮮との「問題解決に向けた交渉に着手」、国民民主党は「関係各国と連携し解決を図る」とするが、具体性に欠ける。

 北朝鮮とどう向き合うかは、東アジアの安全保障政策に直結する重要な問題だ。各党は具体的に議論してほしい。