家族の思い出が詰まった自宅や、長男の誕生記念に植えたキンモクセイ(右奥)を眺める川原さん=京都府舞鶴市上福井

家族の思い出が詰まった自宅や、長男の誕生記念に植えたキンモクセイ(右奥)を眺める川原さん=京都府舞鶴市上福井

 国道175号沿いの山あい。住宅地は昼間にもかかわらず、静まりかえっていた。道路脇に置かれた測定装置の「地表変位監視中」の表示が、ここが今もなお土砂崩れの危険がある被災地であることを伝えている。

 昨年7月の豪雨で裏山の土砂が民家近くに押し寄せた京都府舞鶴市上福井地区。大雨で再び地盤が動く恐れから、市は1年たった今も、地区の一部21世帯52人に避難指示を出し続け、住民は借り上げ住宅での暮らしを余儀なくされている。

 「人生設計が大きく変わってしまった」。夫や次男と避難生活を送る川原淑子さん(77)は疲れ切った表情で、ため息をついた。長男家族と同居するため、自宅を2世帯住宅に建て替えようとローン契約などを終える頃、豪雨に襲われ、避難を余儀なくされた。

 避難指示は解除されないまま3月に入り、「もう待てない」と長男は別の地区に家を購入。「戻っても、裏山が崩れるかもしれない」と、川原さんも長男を頼って今月にも上福井地区を去ることにした。

 46年前に建てた自宅には、長男の誕生記念に植えたキンモクセイが高さ3メートルほどに育った。「家族の思い出が詰まった場所だけにくやしい。本当は離れたくなかった」

 会社員山田直人さん(45)は避難指示が解除されれば、地区に戻るつもりで、週数回、自宅の様子を見に行っている。「まだ建てて10年の家。落ち着くし…」。京都府が建設中の砂防ダムが来年3月に完成するのは明るい話題だが、「砂防ダムだけで大丈夫だろうか。豪雨で再び山が崩れないか」と不安を漏らす。

 住宅の敷地に土砂が流入した宮津市日置の浜地区も、2世帯5人に避難指示が続く。小谷淑恵さん(50)と夫(61)は離れた市営住宅への入居を市に勧められたが、小学校に入学した長男(7)の生活を考え、近所の民家を借りた。

 市の補助はなく、コンクリート擁壁を設ける防災対策費の一部負担も必要だった。小谷さんは「避難で出費が増える中での支出は苦しい。被災者の立場で考えた支援策があれば」と願う。

 舞鶴、宮津両市は避難指示について「状況を見る」とするのみで、いつ解除されるかは分からない。避難の長期化は、精神的にも経済的にも住民に重くのしかかっている。

     ◇     ◇     ◇

 関連死を含め全国で275人の犠牲者を出した西日本豪雨。京都府内では5人が亡くなった。「あの日」から1年、府北部の被災地を歩き、今もなお残る「爪痕」を見つめる。=全3回のうちの1