6万7666人が声援を送った日本―スコットランド戦。観客席から選手までの距離はやや遠い(10月、横浜市・日産スタジアム)

6万7666人が声援を送った日本―スコットランド戦。観客席から選手までの距離はやや遠い(10月、横浜市・日産スタジアム)

 アジアで初めて開催されたラグビーのワールドカップ(W杯)日本大会が閉幕して1カ月が過ぎた。観客動員数は延べ170万4443人。初のベスト8入りを果たした日本代表の活躍で国民は熱狂に包まれ、大会は大成功に終わった。今こそ、ラグビーが野球やサッカー、バスケットボールのようなメジャースポーツに仲間入りするため、変革のチャンスを逃してはいけない。ラグビー界の覚悟と手腕が問われている。

 W杯効果は絶大で、京都府内でも新たにラグビーを始めたいという子どもたちが急増した。申し込みが殺到し、部員が100人近くになったラグビースクールもある。悩みは活動場所の確保だ。人数が増えるとグラウンドの広さも必要で、ただでさえ少ない競技施設や地域の運動場などを探しても空いていることは少なく、スクールの拡大は容易ではないという。

 W杯を取材しても、ラグビーを取り巻く施設・スタジアム環境はメジャースポーツに比べて見劣りした。W杯日本大会のうち、花園(大阪府)や熊谷(埼玉県)のようなラグビー専用競技場が使われたのは7試合のみ。4年前のイングランド大会では25試合が専用競技場で行われた。陸上トラックを併設した総合競技場では観客席と選手の距離が遠く、プレーの臨場感を感じにくい。横浜市の日産スタジアムで6万7666人が観戦した日本-スコットランド戦の声援はすさまじかったが、グラウンドまで距離がありラグビーの魅力を伝える理想の姿とは言えない。施設の充実は喫緊の課題と感じた。

 指導者の育成や大会運営を支える協会組織の活性化も欠かせない。指導者に関しては、トップリーグに世界から有能なコーチを積極的に招くことが日本全体の強化につながると指摘される。一方、学生などアマチュアのカテゴリーでは実績にとらわれず、意欲的な指導者が参加しやすい仕組みが必要だろう。中学や高校では指導を担う教員の負担を減らす支援策が求められ、子どもたちのスクールにも目配りがほしい。

 2001年にノーベル化学賞を受賞した京都大出身の野依良治さんは学生時代の一時期、ラグビー部で楕(だ)円球を追いかけた。W杯の開幕前にインタビューした際、示唆に富む提言があった。その一つが「日本ラグビー振興基本計画」の策定だ。野依さんはラグビーの今後について「ラグビーは一体何のためにあるのか。人間教育のために必要であり、社会に貢献する人材を育成する、社会全体のためにラグビーがあると言わないと。そのための基本的な理念を描いて、着実に実践していくことが大事だろうと思う」と語っていた。

 変革には社会全体を巻き込むダイナミズムが必要になる。そのための根拠となり、多くの人が共有できる理念が確かにあればいい。