「平和に武器は要らない」。民間の人道支援を貫いた足跡の大きさを改めて思う。

 アフガニスタン東部のジャララバードで、福岡市の非政府組織(NGO)「ペシャワール会」現地代表で医師の中村哲さん(73)が、武装集団に銃撃されて亡くなった。

 中村さんは35年にわたり、紛争が続くアフガンやパキスタンの国境付近で難民や貧しい人々に寄り添い、命と暮らしを助けてきた。

 突然の悲劇に現地をはじめ世界の人々が衝撃を受け、悼んでいる。失われた存在の大きさに深い悲しみと憤りを禁じ得ない。

 同時に、その身をもって訴えた紛争地域の人々の現実により目を向けねばなるまい。

 中村さんの出色の活動は、医師としての医療支援にとどまらず、命を脅かす根源にある貧困問題の解決へ行動したことである。

 清潔な水と食料があれば、病を防いで、若者らが飢えから武装勢力に加わるのを避けられるとの信念からだ。住民らと共に掘った井戸は計1600本。荒廃した土地に用水路を引いて農地1万6500ヘクタールを復活させ、65万人の生活を支えた。

 紛争下で長期間、着実に復興支援を積み重ねられたのは、現地の服装や食事、イスラム教を尊重した生活習慣で住民に溶け込み、信頼を紡いだからだ。大国の思惑が絡む軍隊や政府機関の支援でなく、民間こそなし得る役割の重要さを体現してきたといえよう。

 それでも危険は隣り合わせだった。2008年に同会の伊藤和也さん=当時(31)=が武装グループに拉致、殺害された。このため中村さんは単身で活動を続けつつ、護衛を付けて細心の注意を払っていたが、防ぎきれなかった。

 武装集団は待ち伏せして車を襲い、全員の死亡を確認していたとされ、中村さんが標的だった可能性がある。国内の混乱を内外に印象づけ、自らの勢力を誇示する狙いではとの観測が出ている。

 アフガンは米軍の対テロ作戦後の混迷が続き、反政府勢力のテロや戦闘で治安悪化に歯止めがかからなくなっている。

 国連によると、昨年に巻き込まれた民間人の死者は約3800人と過去10年で最悪だった。相次ぐ犠牲者に多くの援助関係者が撤退し、アフガンへの国際援助額も大きく減少する傾向にある。

 中村さんが半生をささげた紛争、貧困に苦しむ人々の平穏はいまだ遠い。世界の支援を絶やさず、広げていくのが託された宿題だ。