組曲で披露される能「鉄輪」の一場面。貴船の丑の刻参りを題材に、女の嫉妬やその後を描く

組曲で披露される能「鉄輪」の一場面。貴船の丑の刻参りを題材に、女の嫉妬やその後を描く

能「善知鳥」の一場面。生きるために殺生を続けた猟師が地獄に落ち…。

能「善知鳥」の一場面。生きるために殺生を続けた猟師が地獄に落ち…。

 夏休みの子どもたちや学生、能楽初心者の人たちに、気軽に能楽堂に足を運んでもらおうという催しが京都市内で今夏相次ぐ。京都を代表する能楽堂、京都観世会館(左京区岡崎)で27日に開かれるイベント「面白能楽館」は、「恐怖の館」と銘打ち、能楽の中にひそむ「恐怖」に焦点をあてる。人間の怖さがにじむ演目を珍しい“組曲”としてまとめたり、鬼女が現れる能「安達原(あだちがはら)」を闇へいざなうような照明で上演したりする。来場者が多様な能面を顔に掛けて写真撮影できるなど、体験コーナーも設ける。

 怖さで泣き叫ぶような刺激の強さはない。ただ、徐々に心に染み入る能楽らしい“漢方薬”のような「恐怖の館」を目指す。「能の持っている人間の『こんなはずじゃなかった』という普遍的な思いをじわーっと体感してもらい、なんとなく怖い、という世界観を届けたい」と、主催する京都観世会の片山九郎右衛門会長(54)は語る。

 午後1時開演。まず「組曲 こんなはずじゃなかった」と題して、三つの能の山場を計30分にわたりリレー形式で見せる。一つ目の能「鉄輪(かなわ)」は、京都・貴船神社の丑(うし)の刻参りを扱う。夫に見捨てられた女が深夜、苦しい心を抱いて貴船に向かい、嫉妬の末に鬼女となる激しい執念と、断ち切れぬ男への思慕から鬼になりきれぬ女の哀れさを浮き彫りにする。

 続く能「善知鳥(うとう)」は、生きるために鳥獣を捕ることを生業(なりわい)にしていた猟師が、殺生の罪で地獄に落ちてまでも妻子を思う姿を描く。家族を養うため、働き続けた末の父親の心情は、時代を超えて現代にも通じる。さらに能「恋重荷(こいのおもに)」は、美しい女御に恋をした老人の物語。重い荷物を持てば顔を見せてもよいと言われ、老人は喜ぶが、あまりの重荷で持ち上がらずに絶望し、怒り、女を恨んで死んでいく。最後には「女御の守り神になろう」と言って消えるが、それは一生つきまとうとも解釈でき…。

 組曲を中心となって企画した能楽師の林宗一郎(39)は「昔の人が何をもって恐怖と感じたのか。心の内面や外見、地獄のような景色など、恐怖を描いた場面の背景を、分かりやすく話した上で上演する。初心者でも楽しんでもらえるはず」。

 来場者が能面や謡などの体験を2時間近く楽しんだ後は、九郎右衛門がシテ(主役)の鬼女を務める能の名作「安達原」を上演する。留守中に寝室を「ご覧になってはいけません」と客の男たちに言い残して出て行った主(あるじ)の女。寝室には女の本性が分かるものが山積みになっている。その後、約束を破って見てしまった男たちを恨み、絶望した女は、鬼女となって男たちに襲いかかる。

 九郎右衛門は「自分の見てほしくなかった部分を見られた羞恥心の裏返しで鬼になる」と語る。人間の孤独や秘密、悲しさから、心の中に住む鬼が大きくなる姿を暗示する。通常より照明を落とし、薄暗い中で人の心の闇を照らし出す。

 一般3千円、大学生2千円、高校生千円、小中学生500円。観世会館075(771)6114へ。=敬称略