「あんたが今おるそこに、開高さんが座らはったんや」。美山町のかやぶき民宿。赤々と薪が燃えるいろり端で主人が誇らしげに語った▼芥川賞作家開高健が没して9日で30年となる。ベトナムやアマゾンへ足を伸ばした行動する作家は、かやぶきの里にも足跡を残している。対談番組を収録し、由良川で釣りをした▼小説家が愛飲した30年もののウイスキーではないが、著作なら「ずばり東京」が読み頃だ。1963~64年、東京五輪に向けて変貌する首都を訪ね歩いたルポルタージュ。そこに生きる人の言葉と生態を、鋭い観察眼で記録した▼2度目の五輪舞台へと姿を変えていくいまの東京と比較しつつ読むと、人の欲の深さと街にしがみついて生きるしたたかさは、55年をへても変わらないと教えてくれる▼「朝から晩まで目を血走らせて暮らしているのにまだそのうえ目を血走らせようというのである」とつづる。かやぶきの炉端でも都会の水のまずさを嘆き、山里の闇の深さに嘆息したそうだ▼洋酒会社のコピーライターとしても筆を振るい、大会中に「みんな東京に集る/オレ旅に出る/テレビで観る/トリス飲む」という広告を発表した。都民だが狂騒を避けて旅先でTV観戦する…そんな批判精神とユーモア。現代ニッポンに不足していないか。