選挙が終わったとはいえ、看過できない問題である。

 参院選で安倍晋三首相が札幌市内で行った街頭演説中、「安倍辞めろ」などと叫んだ男性が北海道警の複数の警察官に腕や服をつかまれ、移動させられた。

 「増税反対」と叫んだ女性も、私服警官に現場から引き離された。

 大津市内でも、首相演説にヤジを飛ばした男性が、滋賀県警の警察官たちに取り囲まれたという。

 北海道警は「トラブルや犯罪の予防のための措置で、対応は適切」と説明した。山本順三国家公安委員長も会見で「現場のトラブル防止の観点で措置を講じたと報告を受けている」と述べた。

 本当に適切なのだろうか。

 公職選挙法の選挙妨害罪が適用された事件の最高裁判決(1948年)によって、演説妨害が成立するのは、聴衆が聴き取れないほどの振る舞いに絞られている、という学説が定着しているという。

 街頭演説で首相は選挙カーのスピーカーを使っていた。肉声のヤジで演説が聞こえなくなり、取り締まり対象になるとは思えない。

 警察官職務執行法は「犯罪がまさに行われようとしているのを認めたとき」に制止できるとしているが、首相演説の現場にそんな状況があったのだろうか。

 そもそも、市民が街頭で発言したりビラを配るなどの表現行為の自由は、憲法で保障されている。警察の許可は不要というのも、2件の判決で確定している。

 結局、警察は法的根拠がないのに、表現の自由など、慎重に取り扱うべき市民的権利を軽んじてしまった。不適切な対応と言わざるをえない。

 気になるのは、警察が、異論に正面から向き合おうとしない傾向がある安倍政権に忖度(そんたく)したように見えることだ。

 選挙戦最終日に安倍氏が最後の演説をした東京・秋葉原では、警察が公道を鉄柵で囲い、動員された支持者以外を遠ざけた。

 安倍氏は2017年の東京都議選の応援演説で受けた「辞めろ」コールに、「こんな人たちに負けるわけにはいかない」といきり立ち、批判を浴びた。その影響もあってだろう、今回の参院選で首相の街頭演説予定は、直前まで公表されなかった。

 警察が時の政権の意向を先取りして強権的に振る舞えば、逆に信用を失い、犯罪捜査などに支障が出かねない。法執行機関として、政治的中立が疑われる行為は、厳に慎んでもらいたい。