木上益治さん

木上益治さん

 京都市伏見区の「京都アニメーション」第1スタジオの放火殺人事件は、24日で発生から6日がたったが、34人が安否不明となっている。その中の一人に、手を抜かない仕事ぶりを背中で見せ、若いアニメーターを表現の高みへと導く「師匠」的存在の木上(きがみ)益治(よしじ)さん(61)がいる。木上さんを知る人は、祈るような思いで、京都府警による身元確認の行方を見守っている。

  「もう一度会って、2人で暮らした頃の思い出を語り合いたい」。木上さんと同じ東京都内のデザインの専門学校で学んだ静岡県藤枝市の自営業渥美敏彦さん(59)が声を振り絞った。2人は、学生寮やアパートで同じ部屋に暮らし、アニメ製作の技術を互いに鍛えた。

 渥美さんによると、2歳年上の木上さんは、2年間働いて蓄えたお金で専門学校に入学。普段は物静かな性格だったが、アニメの話題になると話が止まらなくなった。「未来少年コナン」の主人公が躍動する絵の流れに「すごいなー」と感嘆の声を上げていた姿を覚えている。暇があればペンを持ち、武骨なアニメのキャラクターを描いたり、西洋画の人物を模写したりしていた。「びっくりするくらい早くてうまかった」

 木上さんは在学中、雑誌に載った採用広告に応募してアニメ製作会社に採用され、念願をかなえた。渥美さんが卒業後に静岡で家業を継いだ後も、数年間は互いの家を行き来する仲が続いた。「僕が仕事でトラックに乗って東京に行くとね、助手席に座ってたわいない話をしました」と振り返る。

 その後、連絡は途絶えたが、20数年前、アニメ映画のエンドロールに木上さんの名前を発見し、隣にいたわが子に「一緒に勉強していた人だよ」と思わず自慢した。京都アニメーションに所属していると知ったのは1年ほど前。インターネットで調べて、初めて著名なアニメーターになったことを知った。

 木上さんは、線画を動かし、そこに命を吹き込む「京アニの仕事」の基本を体現し、アニメならではの躍動感や疾走感あふれる動きの表現で知られる。ファンの間では名シーンとして語り継がれている、宇治が舞台のテレビアニメ「響け!ユーフォニアム」で主人公が涙を流しながら橋を走るシーンの演出を手掛けた。

 同社が初めて手掛けたオリジナル映画「ムント」では監督を務め、公開を前にした2009年4月に京都新聞社の取材に応じ、「じっくり向き合うことで、作り手が伝えたいことをストレートに打ち出せた」と手応えを語っていた。

 スタジオではベテランとして若い社員を引っ張り、同社がアニメーター志望者向けに開く「プロ養成塾」でも講師を務める。

 渥美さんは、最近、自宅で荷物を整理していると、木上さんから届いたはがきが見つかった。40年前の消印。「今度引っ越します。また遊びに来てください」と記されていた。渥美さんは事件の報を受け、いてもたってもいられなくなって20日に現場を訪れた。「『有名になった後で連絡をとっても…』とためらいがあった。無事に出てきてほしい」