ケロイドを防ぐ圧迫装具のサンプルを腕に装着する盛本さん。熱傷治療の被害者支援の必要性を訴える(京都市内)

ケロイドを防ぐ圧迫装具のサンプルを腕に装着する盛本さん。熱傷治療の被害者支援の必要性を訴える(京都市内)

 重いやけどを負った犯罪被害者に十分な治療情報は届いているだろうか。福知山市の花火大会で6年前、58人が死傷した露店爆発事故の被害者からこの夏、寄せられた疑問の声だ。「元の体に戻りたい」。そう願い、情報を求める犯罪被害者、家族の思いが、もっと認識されるべきだと思う。

 7月18日、京都市伏見区のアニメ製作会社「京都アニメーション」(京アニ)で起きた放火殺人事件は36人が犠牲となり、重軽傷者は33人に上った。京都府警によると、やけどを負った社員も多くいるという。

 容疑者が犯行に使用したとされる「ガソリン」「携行缶」は露店爆発事故の原因と同一で、被害者につらい記憶をよみがえらせた。同時に、露店のそばにいた妻と長男が大やけどを負った盛本英靖さん(52)は「ケロイドを防ぐために家族が使った圧迫装具を、負傷した京アニ社員に知ってほしい」と考えた。

 盛本さんは会社勤めの傍ら病院探しに奔走し、愛知県春日井市の義肢装具メーカーの圧迫装具を知った。2年間着用して生活した妻は「赤黒い患部を見るだけで落ち込んでいたので、肌色の装具を着用すると見た目を隠せて皮膚も保護でき、精神的に救われた」。盛本さんは「こうした治療と出合えたのは偶然だった」と強調する。

 露店爆発事故で大やけどを負い、生死の境をさまよった和歌山県の女性(45)は「救急治療の退院後、傷をきれいにしたくても、どこの病院が適切なのか分からず、絶望を感じた」と振り返る。

 京アニ事件の遺族や負傷者家族らに携わる京都犯罪被害者支援センター(上京区)の担当者は「医療は専門性が高く、現状では確かな情報を届けられる体制にない」とする。府警や府、京都市は心のケアの窓口などを設けるが、傷痕の治療に関する情報提供は行えていないという。

 今月、成立して15年になる犯罪被害者等基本法は「犯罪被害者が心身に受けた影響を回復するため、適切な保健医療サービスが提供されるよう必要な施策を講ずる」とうたうが、実効性は不十分だ。

 犯罪で受けた心身の傷痕を治す費用面でも課題は残る。京アニ事件の被害者は労災認定される可能性があるが、やけど痕などを公的医療保険の適用外で処置しようとした場合、補償対象となるかは不透明だ。愛知県の会社の圧迫装具を使った露店爆発事故のケースでは、花火大会の主催者側が道義的責任において補償した。同社には、やけどを負った京アニ社員からの問い合わせがあり、「容疑者への請求は無理だろう」と無償提供を決めている。

 犯罪被害者にとって事件前の日常に戻ることは容易ではない。事件の記憶を消し去りたいと願う被害者のために、やけどなどの傷痕を減らすための治療が、国の被害者支援制度に明確に位置づけられ、実施されるべきだろう。