世界貿易機関(WTO)の紛争処理機能が、事実上失われることになってしまった。

 自由貿易体制の維持にとって、重大な危機である。

 WTOの紛争処理では、当事国による協議で解決しない場合、国際通商法の専門家らの小委員会(パネル)を設置し、審理を行う。

 パネルの判断に異議があれば、当事国が上級委員会に訴えることができる。そこで、WTO協定に違反していると認定すると、当該の国に是正勧告する仕組みとなっている。

 上級委は通常、7人の委員で構成され、一つの案件を3人で担当する。それなのに委員数が3人にまで減ったうえ、うち2人の任期(4年)が10日に終わった。

 これでは、新規の上訴案件を審理することが不可能となる。紛争処理機能はまひしてしまったと、いわざるを得ない。

 なぜ、上級委に欠員が生じているのか。それは、トランプ米政権が、2年前から委員の補充に反対し続けているからである。

 米国は、WTOが不当に加盟国の政策を制限したり、新しいルールをつくって従わせたりしているとして、不満を募らせている。

 背景には、貿易赤字を減らすための関税などが認められなかったことがある、と指摘されている。

 だが、紛争処理において、米国の主張が常に通るのなら、160以上の国や地域が加盟し、それぞれの主張を調整するWTOの存在意義は、ないも同然だ。

 米国はこれまで、自由貿易の恩恵を最も享受してきた。

 委員の補充に反対するといった行為はやめ、不満があるのなら、加盟国の同意が得られるようなWTO改革に、堂々と取り組むべきである。

 WTOは、途上国開発を重要視する新多角的貿易交渉(ドーハ・ラウンド)の停滞によって、貿易のルールづくりに関する機能を、著しく低下させてしまった。

 さらに紛争を処理する手だてまで失えば、どうなるのか。

 保護主義的な政策が各国にはびこり、貿易摩擦は一層過熱する。世界経済の先行きにも、暗雲が漂うだろう。

 6月の20カ国・地域首脳会議(G20大阪サミット)では、WTOの「紛争解決制度の機能に関して行動が必要」とする首脳宣言が採択された。

 日本はじめ自由貿易の堅持を掲げる各国は、早急に事態の打開を図らねばならない。