国連は今年から2028年までを「家族農業の10年」と定め、加盟国に家族農業を中心とした農業政策を促している。

 これまで非効率で時代遅れとみられがちだった小規模な家族農業こそ持続的だとし、飢餓や貧困、環境破壊など世界が抱える難題の解決につなげていこうという呼びかけだ。

 日本ではあまりクローズアップされていないが、農業を巡る新たな国際潮流として注目される動きだ。大規模化や企業的農業を進める日本政府も対応を迫られよう。

 第2次大戦後、世界は飢餓や貧困の解消に向け、効率優先の大規模な近代的農業を推進してきた。

 だがそうした農業が環境破壊や水資源の枯渇、伝統文化の断絶といった負の側面を生んできたのも事実だ。家族農業の価値の見直しは、その反省から進められてきたものだ。

 家族農業は世界の食料の8割以上を供給しており、農地や環境の保全、農村コミュニティーの維持、雇用、食料安全保障などの面で大きな役割を果たしている。

 愛知学院大准教授で、国連食糧農業機関(FAO)で客員研究員を務める関根佳恵氏によれば、家族農業の再評価の背景には時代とともに「効率性」の考え方が多様化してきたこともあるという。

 例えば、砂漠化などで農地が減る中、食料確保の面で土地生産性が高い集約型農業が重視されるようになったこと、エネルギー効率性の面で化石燃料依存度の低い農業形態が評価されるようになったことなどだ。大規模化などの労働生産性は効率性の一側面にすぎない。

 世界の農場の9割以上を占める家族農業は、市場のグローバル化や国際価格の乱高下、多国籍企業などによる土地や種子の囲い込みによって危機にひんしているともいわれる。

 そうした現状を変えていくためにも、国連による小規模農業や家族農業の再評価の意義は大きい。

 国連の動きを受け、欧州連合(EU)では、共通農業政策改革の中心として農村の雇用創出と小規模・家族の維持、発展が議論されているというが、日本はどうか。

 国内の家族経営体は全経営体の97%を占めるが、大規模化の推進や農産物輸出の拡大を図る農政の基軸は変わらず、「家族農業の10年」に対する目立った政府の対応は見えてこない。

 だが日本は共同提案した104国の一つだ。積極的に一歩を踏み出す責任があるのではないか。

 とりわけ中山間地への対策が重要だ。生き生きとした家族農業を育てていくことは、過疎化が進む地域が活力を取り戻すきっかけになる可能性があり、地方創生の理念にもかなう。

 まずは「中山間地農業ルネッサンス事業」「日本型直接支払」といった現状の支援制度を小規模・家族農業の視点から洗い直してみてはどうか。

 地域の実情に即したきめ細かな施策を確立し、「強い家族農業」を育ててほしい。