袷(あわせ)の着物に綿を入れ防寒着にし、春になると綿を抜く。「四月朔日」「四月一日」と書いて「わたぬき」と読む珍しい名字がある。旧暦4月1日に綿を抜いた衣替えに由来する▼福知山市の丹波生活衣館で開催中の企画展「暖をとる―くらしの中の衣と道具」で知った。季節の移ろいに昔の人は手間を惜しまなかった▼地元の染織作家・故河口三千子さんが、織りの参考にと収集を始めたのは1960年代のことだ。捨てられる運命の日常着を残したい。縞(しま)や格子模様の丹波木綿やくず繭で織った地絹(じぎぬ)の着物…。生活衣館の原点である▼丹波生活衣と名付けた収集品からは明治から昭和の暮らしの知恵や工夫が見える。保存・展示へ向け94年に友人らを発起人とする会が発足、2002年の資料館開設に実を結ぶ。<夢は常に機音が響く資料館>。自著に記した河口さんだが、開館の前年に亡くなった▼保存の呼び掛けから25年、発起人だった四方美代子さん(96)は今もボランティアで館の運営を支える。収蔵品の台帳を作ったり、裂織(さきおり)体験に使う材料を準備したり。「ものを大事にしてきた庶民の歴史を再発見してほしいです」▼裂織でコースターを織った。織り込まれたのは、河口さんの志と受け継ぐ四方さんらの思いか。綿入れのようなぬくもりが伝わる。