「響け!ユーフォニアム キャラクターメイキングラフ集」に収録された池田さんのラフ画

「響け!ユーフォニアム キャラクターメイキングラフ集」に収録された池田さんのラフ画

「涼宮ハルヒの憂鬱」に登場する喫茶店で毎年飾り付けているササ飾り。作中で七夕をテーマにした物語がある。今も、ファンにとっては大切な「聖地」のままだ

「涼宮ハルヒの憂鬱」に登場する喫茶店で毎年飾り付けているササ飾り。作中で七夕をテーマにした物語がある。今も、ファンにとっては大切な「聖地」のままだ

池田さんは業界で知られる存在になっても、画力向上を目指し続けた。ファッション誌を購入しては女性モデルのスケッチを繰り返し、同僚の描いた原画をひそかにコピーして研究を重ねた。デッサンの練習でモデルを引き受けてくれた知人に胸の内を吐露している。「私はまだまだ絵が下手くそ。もっと上手になりたいねん」

たゆまぬ努力の人が持てる限りの力を発揮したのが、2015年放映の「響け!ユーフォニアム」だった。宇治を舞台に高校の吹奏楽部の成長を描いたヒット作で、登場する部員は60人近くに及んだ。

京アニ発行の「響け!ユーフォニアム キャラクターメイキングラフ集」には、青春に華やぐ若者たちを生み出す過程で池田さんが描いた約180ページ分のラフ画が収録されている。とりわけ、金管楽器を担当する主人公「黄前(おうまえ)久美子」へのこだわりは強く、完成までイメージは変遷し続けた。周囲が目の当たりにしたのは、池田さんが「髪形とか首筋のライン、瞳の色や形が決まらへん」と思い悩む姿だ。

大事にしたのは、原作者の思いと視聴者の願い、そして自身のアイデンティティーを組み合わせてキャラクターを誕生させること。「京アニ史上稀な難産でしたが、『その甲斐はあった』と監督に言ってもらえました」。ラフ集につづられた文章には、高い壁を乗り越えた達成感がにじみ出る。

そんな生粋のアニメーターが「響け!-」の見どころとして挙げたのが12話の1シーンだ。命を吹き込むように描き出した久美子が、思うような演奏ができず悔し涙をこぼしながら、宇治橋を駆け抜けていく。「うまくなりたい!」。果てしなく広がる未来への叫びは、高みへと手を伸ばし続けた池田さんの、心の声と重なっていた。

2019年7月18日に発生した京都アニメーション放火殺人事件。理不尽に命を奪われたのは、アニメの力をまっすぐに信じ、世界中のファンに夢と希望を届けた人たち。連載「エンドロールの輝き」は、クリエーターとして生きた36人の足跡を丹念にたどることを目標にしました。それは、人数の多寡を表す「36」の数字からはうかがい知ることのできない、特別な物語です。(岸本鉄平、本田貴信)