中本晃氏

中本晃氏

 私は人生の中でスポーツの世界には学ぶことが本当にたくさんあると感じている。そういうことから、ここでは今年の7~9月にかけて行われた東京オリンピック・パラリンピック2020で学んだことの一端について触れてみたいと思う。

 コロナ禍と酷暑それに大雨というこれまでとは全く違った環境のもとで、東京オリンピック・パラリンピックが開催され熱い戦いが繰り広げられた。世界で新型コロナウイルスの感染が広がっている中での開催となったことから、開催することの意義、可否をはじめさまざまな議論があり、結果として、無観客、選手他スタッフたちは日常の行動にも厳しい制約が設けられるといった状況の中での開催となったが、選手が、この日のために懸命な努力を重ね磨いてきた技で気力を漲(みなぎ)らせて戦う姿は数えきれないほど多くの感動を生み出した。

 印象的だったのは、殆(ほとん)どの競技において多くの選手が、大会が開催されたことに、そして選手仲間の心のこもった応援に感謝する姿、また戦いの相手に敬意を表し、敵・味方なく敗者が勝者を讃(たた)えるといった姿が其処彼処で見られたことである。競争相手の存在を有難(ありがた)いと思う心、相手を思いやる心、人の息遣いや温(ぬく)もりを自然に感じたいと願う心といった人間社会が持続的に繁栄していくための前提となる大切な姿、言い換えるとSDGsを実質化したような姿が見られた大会だったと感じた。

 私は学生時代まで柔道をやっていたこともありオリンピックでの日本柔道に大いに期待していた。日本は実に見事な戦いぶりで男女合わせて過去最多のメダルを獲得した。これは選手の不断の努力によるものであることは無論のこととして、これまでに報道された内容から推測するに、日本の柔道連盟や代表監督の日本柔道復活に向けた長年の努力も大きいものがあったと思われる。日本柔道界もパワハラや代表選考の不透明さなどの問題が内在し、それが日本柔道の不振にも繋(つな)がっていたが、連盟の各委員を選手時代の実績に囚(とら)われずに人物本位で選ぶ、代表選考も客観性・透明性を高めたやり方に変える、科学の力を活用して多くの試合を客観的に分析し選手にフィードバックするなどの改革を行ったことが大きく貢献したようである。また対話重視の姿勢と、選手が失敗や変化を恐れずチャレンジできるよう柔道だけの世界に囚われることなくさまざまな知識を身に付けて考えさせるようにして、どんな変化にも適応できる代表チームにすべく努めた井上康生代表監督の手腕も大きかったと思われる。企業にとってもこの連盟のガバナンス改革、代表監督の人材育成法などには、大いに学ぶことがあると強く感じた次第である。

 この日本柔道も「柔道混合団体戦(男女各3選手で1チーム)」は決勝でフランスチームに敗れた。団体戦といっても柔道は個人競技なので個人戦と思われがちだが、陸上競技の駅伝と同じで、個人の力もチームの団結によって格段に上がり、それが団体戦という場で発揮される。確かにテレビで観戦していてもフランスチームの気迫が明らかに上回っていて、それが個々の選手の力となって現れ勝敗を決したように感じられた。フランスチームはこれまで何度も日本に敗れていて、3年後のオリンピックがパリ開催となることもあり、この団体戦で日本に勝つことを一番の目標にしていたようである。企業も強くなるためには組織全体の目指すところを明確に設定して、構成員一人一人の力がその目標に向かって最大に発揮されるようにすることが大切だと教えられた思いがする。

 今の日本はまだコロナ禍にあるとはいえ、環境・エネルギー問題また主要先進国の中でも経済成長性が最も低いなど大きな課題が内在している状況にあるが、先に述べたことを含め学んだ多くのことをコロナ禍が収束後の日本経済の活力向上に少しでも生かせていけたらと考えている。

 中本 晃(なかもと・あきら)大阪府立大工学部卒。1969年、島津製作所入社。2009年、社長。15年から現職。京都工業会会長。鳥取県出身。75歳。