黛まどか氏 ©MPd F8 PHOTO STUDIO

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 「もっと大きく、もっとゆっくり、もっと遠くを」

 故十代目坂東三津五郎丈の言葉だ。日本舞踊の心得として語ったのだが、日常のあらゆる場面に通ずることだと思う。時間に追い立てられる現代生活。仕事や人間関係で行き詰った時など、冒頭の言葉を心がけると、たちまち呼吸が深くなって“気”が頭から下り、姿勢が整い、目線が上がって遠くが見えてくるのがわかる。

 企業経営においても同様だ。短期で結果が求められる昨今。世の中全体が目の前の競争や利益を追求するあまり、本来の目的を見失いがちだ。

 政策シンクタンク構想日本の加藤秀樹氏とクリエイティヴディレクター谷野栄治氏のユーチューブ対談「脱線!!どちて雑談」が面白い。世の中の問題点をユニークな視点で雑談風に掘り下げる。第22話「ケーススタディの普及から始まる“優位性の喪失”」では、マーケティングの落し穴について面白く話す。

 同じ手法でマーケティング調査をする限り、結論は同じになるはずだと両氏。一般的にマーケティングとは“差別化”だと言われる。他社の製品より少し良いものを作り、それをアピールしようと努める。そこでコモディティ化が起こると谷野氏は指摘する。

 糖質オフのビール、燃費の良い車など、いったんある方向に振れると一斉にどの会社も同じ方向に向き、その中の“微差”で勝負をかけていく。もちろんそこには、人は急激で大きな変化を好まないなどの裏付けがあってのことなのだろうが。

 スマホが登場する前、ガラケーの携帯電話の重量が競われた時期があった。「世界最軽量!」という言葉が広告に躍る。1グラムでも軽くしようと必死に研究し、競って売り出した。他方、当時はケータイ・ストラップが大流行り。消費者は一つのケータイに、三つも四つも大きなキャラクターの付いたストラップをぶら下げていた。客観的に見れば、意味のない競争だったことになると言うのだ。

 対談を聴いて思い出したのが冒頭の言葉だ。経営者が日々競争に迫られ闘いの中にあるのは承知している。短距離走と長距離走を同時に強いられているようなものだと思う。が、もっと大胆に発想し、時間をかけて研究開発し、他社とは一線を画す先を見据えた経営が求められているのではないだろうか。

 「マーケティングは過去。クリエイティヴは未来」と谷野氏。クリエイティヴとは、常に五感のアンテナを立てて世の中を凝視しながら生きる中で感受する“ひらめき”に他ならない。

 京都は千年の都だが、千年の間「もっと大きく、もっとゆっくり、もっと遠くを」見て、都づくりをしたように思う。欧米型の企業統治が進んできた中で、今だからこそ日本人のあり方を、暮らしの中で、企業経営の中で、ここ京都から見直してはどうだろう。それこそがサステイナブルへの道ではないか。

 

 まゆずみ・まどか 俳人。1994年、「B面の夏」50句で第40回角川俳句賞奨励賞受賞。同年、初句集『B面の夏』刊行。96年、俳句誌「月刊ヘップバーン」創刊・主宰(通巻百号で終刊)。97年、「フランス香水協会」マドモアゼル・パルファム賞(文化部門)受賞。99年、北スペイン・サンティアゴ巡礼道約800キロを踏破。同年、「日韓文化交流会議」委員に就任、度々訪韓。2001~02年、四季にわたり5回訪韓、釜山-ソウルの約500キロを歩く。02年、句集『京都の恋』で第2回山本健吉文学賞受賞。10~11年、文化庁「文化交流使」として仏パリを拠点に欧州で活動。17年、四国遍路約1400キロを踏破。オペラの台本執筆や校歌の作詞なども手掛ける。20年、「京都×俳句プロジェクト」(https://kyoto.haiku819.jp/)を発足。21年より「世界オンライン句会」主宰。現在、ワコールホールディングス社外取締役。京都橘大、北里大、昭和女子大客員教授。「日本再発見塾」呼びかけ人代表、「公益財団法人東日本鉄道文化財団」評議員、岐阜県大垣市「奥の細道むすびの地記念館」名誉館長など。著書に句集『花ごろも』『忘れ貝』『てっぺんの星』、紀行集『ふくしま讃歌-日本の「宝」を訪ねて』『奇跡の四国遍路』、随筆集『引き算の美学-もの言わぬ国の文化力』、最新刊『暮らしの中の二十四節気-丁寧に生きてみる』(2021年10月刊行)他多数。神奈川県出身。

黛まどか公式HP https://madoka575.co.jp/