白須正氏

白須正氏

 私の自宅に近い嵐山も新緑が映え、にぎわいを取り戻し始めている。

 新型コロナウイルス感染症のまん延防止等重点措置が終了し、ゴールデンウイークには多くの観光客が京都を訪れることが予想される。この2年間、京都観光は極めて厳しい環境にあった。2021年の京都市内主要ホテルの客室稼働率は31・1%で、コロナ禍前の19年の81・2%と比較すると50ポイント超低下した。観光産業は観光消費額が非常に大きく、宿泊施設だけでなく、飲食店、土産品、タクシーや公共交通機関など多くの関連産業に影響を与えている。

 それでも、京都経済が倒産件数の増加や失業率の悪化を招くことなく回っているのはなぜか。それは、146万人を超える人口を抱える大都市・京都の産業の多様性にあるといえる。

 京都市には「観光都市」のイメージが強いが、製造品出荷額が2兆4620億円(20年)、売上高1千億円超の企業が18社存在する「ものづくり都市」でもある。市内総生産に占める製造業の割合は22・0%(18年度)を占め、数字が発表されている政令指定都市17市の中で4番目、製造品出荷額では20市中8番目に位置する。製造業出荷額は飲料・たばこ・飼料製造業がトップで、以下、電子部品・デバイス・電子回路製造業、業務用機械器具製造業と続く。過去にさかのぼると、1980年は繊維工業がトップで、第2位が食料品製造業、以下、電気機械器具製造業、輸送用機械器具製造業と続いていた。これがバブル期からバブルがはじける90年、2000年には電気機械器具製造業がトップに代わる。このように京都の製造業も伝統産業から電気・電子部品・機器や機械工業に主力が移るなど、時代に即して変化してきた。

 一方、産業構造の変化という点では、市内総生産もサービス業が24・5%と製造業を上回り、従業員数でも48・7%(16年)と約半数を占める。内訳をみると、かつては宿泊業・飲食サービス業が最大であったが、現在では医療・福祉がトップに代わっている。このように、京都市は社会経済の変化に応じてうまく対応してきた「バランスの取れた産業都市」なのである。

 しかし、グローバル化やデジタル化が急速に進む社会で京都経済が今後も持続的に発展できるかは予断を許さない。コロナ禍で明らかになったように過度の観光産業への依存は危うい。一方、ものづくり産業も伝統産業の長期的な不振や京都産業を支えてきた近代工業の生産部門の空洞化など多くの問題を抱える。また、市民の安心安全を支える医療・福祉や教育などのサービス業は、これまで行政があまり産業面で焦点を当ててこなかったきらいがある。

 これからの京都産業を考える時、多くの課題も浮かび上がるが、京都には永年にわたり築きあげられてきた歴史や文化、磨き抜かれた技術などの蓄積があり、これらを生かすことで課題の解決は十分に可能である。財政状況は厳しいが、京都府、京都市を中心に京都を挙げて京都のポテンシャルを最大限に活用、発揮することで、多様性を持つ京都産業が持続的に発展していくことを期待する。

 しらす・ただし 1955年、京都市生まれ、京都大学法学部卒。1978年、京都市役所入庁、2011年、産業観光局長、14年、産業戦略監。16年、龍谷大政策学部教授。専門は地域産業政策。