およそ山野にある植物すべてから鼠色は染め出せるのです。しかも一つとして同じ鼠はないのです。
志村ふくみ『一色一生』(求龍堂)

白樫の柔らかな香り漂う

鼠色がゆっくりと淡く染まる

1度目の媒染

もう一度染液に戻して染める

糸に鼠色が現れた
江戸時代、奢侈(しゃし)禁止令のもと町人の着物に茶色と鼠色が盛んに使われ、非常に数多くの種類があったことから、「四十八茶百鼠」という言葉が生まれた。例えば、千利休にちなんで名付けられた利休鼠は緑がかった鼠色であるし、山鳩の羽の色にちなんだ鳩羽鼠は紫がかった鼠色である。当時の生活や文化と結びついた色名を聞くだけでもおもしろいし、色の感受性の豊かさに驚かされる。
実は、鼠色はほとんどの植物から出る色である。普段、工房では白樫、サルスベリ、梅、桜、ヨモギ、バラなど、いろいろな植物で鼠色に染めるが、それぞれ独自の鼠色をもっている。100種類の植物があれば、100種類の鼠色がでる。自然がなぜこれほどまでに植物に鼠色を与えたのか不思議であるが、白から黒までの間に無限の鼠色のグラデーションを植物は持っている。
今回の染めには樫の枝や葉を使った。樫はブナ科の常緑高木でよく見かける樹木であるが、鼠色を染める時には一番よく使う。樫で染めた銀色のような鼠色にいつも私たちは魅了される。
アトリエシムラ代表 志村昌司