26 July 2021

草木の聲
紅花 vol.1

 染織家志村ふくみさんの芸術精神を継承する染織ブランド「アトリエシムラ」のものづくりを見つめる。
Photo by 田口葉子

純白の絹糸が、一入(ひとしお)一入、紅に染まってゆくのは、清純な少女が、目覚めて花開くのを見守るような感動がある。

志村ふくみ『語りかける花』(ちくま文庫)

畑に咲く紅花
色を揉み出す
袋に詰められた花びら
 
 
目の覚めるような紅の色が現れた

 夏になると、嵯峨野の染料畑で栽培している紅花が一斉に黄色い花を咲かせる。紅花をみると、いよいよ夏がやってきたことを実感する。

 紅花はキク科の二年草で、古くから中近東、インド、中国で栽培されていた。日本には推古天皇の時代に渡来したと言われている。染料としてだけでなく、「口紅」や「頰紅」などの化粧品の原料や「紅花(こうか)」という生薬としても広く使われていた、非常に有用な植物である。紅花は「末摘花(すえつむはな)」とも言われ、『源氏物語』で鼻の赤い姫君が末摘花と呼ばれたことはよく知られている。

 草木染めにおいて花びらで染めることはほとんどないが、紅花だけは例外である。紅花染めは前日から紅花を水につけておき、黄水を何度も洗い流したあと、灰汁にいれてもみこみ、酢酸などによって紅色を引き出す。いわば二段階の染めであり、技術的にとても難しい。

 苦労するだけあって、染まった紅の色はやわらかく、気品がある。まさに「天上の色」である。

アトリエシムラ代表 志村昌司