28 June 2021

草木の聲
茜 vol.1

 染織家志村ふくみさんの芸術精神を継承する染織ブランド「アトリエシムラ」のものづくりを見つめる。
Photo by 田口葉子

なぜ自然は地中の根にあれほど天上的な色を宿すことになったのであろう。

志村ふくみ『私の小裂たち』(ちくま文庫)

茜が力強く糸に入っていく
媒染前
媒染後、再び染液につけると色が際立つ
濃淡を染め分ける
染めを重ねて現れた濃い茜色
茜のグラデーション

 茜は私たちが最もよく使う植物染料の一つである。茜の色は安定していて、とても安心感がある。もともとは山野に自生するつる草で、奈良時代から赤系の植物染料として重宝され、人々に親しまれていた。例えば、『万葉集』の額田王(ぬかたのおおきみ)の歌〈あかねさす紫野行き標野(しめの)いき〉や柿本人麻呂の歌〈あかねさす日は照らせれどぬばたまの〉でよく知られているように、「あかねさす」は茜に由来する枕詞である。

 以前は京都・嵯峨野周辺でも日本茜が群生していて、「嵯峨茜」と名づけて工房総出で茜掘りをしていた。しかし、現在では日本茜は手に入れることは大変難しくなり、普段はヨーロッパ原産の西洋茜を用いている。西洋茜も歴史が古く、すばらしい染料であるが、幻の日本茜の品格ある色は私たちの憧れである。

 茜は「赤根」と呼ばれたように、赤い根が特徴である。茜の根を炊き出して染めた色は、茜空を思わせるような天上的な色であり、さらによいことに非常に堅牢で退色しにくい。光輝く根の色、それが茜色である。

アトリエシムラ代表 志村昌司