健康に老いて、なお矍鑠(かくしゃく)とした品格を失わぬ老境の色がかめのぞきなのです。
志村ふくみ『一色一生』(求龍堂)

最晩年の静かな藍甕

色が現れるかは浸すまでわからない


酸素に触れ、うっすらと色が現れた



かめのぞき
工房に藍甕(あいがめ)があり、いつも藍建てができるということは本当にありがたいことです。新月から藍を建て始め、太陰暦に従って藍染めを行うことで、宇宙的な力と藍の生命のつながりを間近で感じることができます。
藍は揺籃期から晩年まで、人の一生と同様、日々刻々と変化していきます。最初は若々しい縹色(はなだいろ/薄い藍色)が染まります。それから成長すると、瑠璃紺(光沢のある紫がかった紺色の瑠璃)になっていきます。壮年期を経ると、だんだんと藍分が失われ、水浅葱(みずあさぎ/緑がかった薄い藍色)に近づいていきます。そして最晩年に染まる色が「かめのぞき」と言われる、本当に淡い藍色です。
私たちにとって「かめのぞき」は憧れの色ですが、なかなかうまく染めることができません。というのも、ただ淡い藍色というわけではなく、品格を備えた老境の色だからです。色の品格というものをどう引き出したらよいのだろうか、試行錯誤の日々ですが、それはもしかすると私たちの心のあり方が問われているのかもしれません。
アトリエシムラ代表 志村昌司