友禅染裂〈雪佳蝶鳥文様〉(明治36〔1903〕年、千總蔵)

 今は1年の中でも寒さの厳しい時季ですが、暦の上では春。毎朝の通勤や通学では、おだやかな季節に思いを馳せます。

 友禅染裂〈雪佳蝶鳥文様〉は、私たちに春を予感させてくれます。

 植物の芽吹きを思わせる鶯(うぐいす)色と、生命の躍動を感じさせる朱色を背景に、鳥と蝶がリズミカルに配置されています。2つに割れた尾や赤い頰などから、鳥は燕を意図しているのでしょう。また、それぞれの蝶は、藍色、橙色、黄色、紫色などの色調は似ているものの、全てが異なる色の組み合わせで染め上げられています。暈(ぼか)しをいかした表現や色種から、螺鈿(らでん)細工や七宝などの光沢ある工芸品が連想されます。

馴染みある「鳥と蝶」

 鳥と蝶の組み合わせは、現代も馴染みのあるものですが、古来、正倉院宝物などにも見られる文様です。また、蝶や燕のそれぞれが吉祥を寓意しています。

 

 蝶は、中国語では、80歳を意味する「耋(てつ)」と発音が通じるために、長寿を意味すると考えられています。一方、燕はつがいで子育てをする様子から、家内安全や夫婦円満のイメージにつなげられることがあります。そして、蝶も燕も春を連想させるモチーフとして、親しまれてきました。

 本作のデザインは、春を大きく喜ぶというよりも、小さな春の到来をささやかに告げてくれたのかもしれません。

 
絵刷:アゲハチョウの文様が摺り出されている
THE KYOTOへの会員登録・ログイン
続きを読むには京都新聞IDへの登録が必要です。
京都新聞IDのご案内はこちら