そのピンクは音でいえば半音のピンクだ。淡い影を帯びている。甘い色ではない。
志村ふくみ『母なる色』(求龍堂)

経糸を染液の中で泳がせる

ゆっくりとしっかり染まっていく

媒染前の色

水洗で仕上げる

山景色にも映える糸に染まった

着物と帯に調和する冬青の帯揚げ
冬青(そよご)は初冬に真紅の実をつける。よくみると枝からじかに実がついているのではなく、細長い果柄で斜めにぶらさがっているのがおもしろい。グレーがかった冬風景に真紅の実はとてもよく映える。幹は硬くて耐久性があるため、昔はそろばん玉に用いられていたそうである。
冬青のピンクは、紅花のような乙女のピンクではない。どちらかというとしっかりとした安定感があるが、どこか老いも感じさせるような、淡い影を帯びたうすべに色である。梅、桜、桃の枝からもピンク色がでるが、冬青のピンクからは一年中青い葉をつけている植物ならではの力強さを感じる。
冬の寒い日に、冬青のピンクをまとって出かけてみると、うきうきと自分自身が真紅の実をつけた冬青の気分になる。「シモオヌよ、柊(ひいらぎ)冬青に日が照って、四月は遊(あそび)にやって来た」と詩人が詠っているように、冬青は春の訪れを予感させる存在なのである。
アトリエシムラ代表 志村昌司