23 May 2022

草木の聲
高野槙 vol.2

 染織家志村ふくみさんの芸術精神を継承する染織ブランド「アトリエシムラ」のものづくりを見つめる。
Photo by 田口葉子

何がうれしいかといってはじめての植物で染める時、『どんな色が出るだろう』と想像する時ほどうれしいことはない。

志村ふくみ『たまゆらの道』(世界文化社)

工房いっぱいに高貴な香りがたつ
一反の糸を一気に染め上げる
香りと色が糸に移る
鉄媒染でグレーへと転化する
清洌なグレーに仕上がった
「高野六木」の糸たち

 毎年夏になると、真言密教の聖地である高野山を訪れます。高野山の奥之院は弘法大師の廟を中心とした広大な霊域であり、入定した弘法大師へ食事が運ばれる「生身供(しょうじんく)」が千年以上にわたって行われています。私たちは日常から離れ、特別な宗教的空間の中で、高野山ゆかりの植物で染めをしたり、奥之院にお参りをしたり、金剛峯寺で「阿字観(あじかん)」という瞑想体験をして、数日間の時を過ごします。

 高野山には高野六木(ろくぼく)—高野槙(こうやまき)、杉、檜、赤松、樅(もみ)、栂(とが)—と呼ばれる霊木があり、江戸時代から寺院や伽藍の修繕以外には伐採が禁止されています。かつて祖母と母が高野六木で遠山袈裟(とおやまげさ)を織り、奉納させていただきましたが、「高野の華」と名付けられた袈裟には木霊が宿っているように感じます。

 今春、高野山から、高野槙をいただきました。まっすぐすらっとした端正な樹形で、主張のある強い香りがします。普段は染めることのない木なので、どんな色が出るのか、興味津々でした。じっくり炊き出して染めてみると、透明感のある神々しい桃色になり、さらに鉄媒染をすると、混じりけない、清冽なグレーになりました。とてもありがたい気持ちになります。

 干された高野山の色糸をみると、これで何を制作しようか、わくわくした気持ちになります。

アトリエシムラ代表 志村昌司

Related
草木の聲
高野槙 vol.1
Photo by 田口葉子
草木の聲
冬青 vol.1
Photo by 田口葉子
草木の聲
かめのぞき
Photo by 田口葉子
草木の聲
色無地
Photo by 田口葉子
草木の聲
玉葱
Photo by 田口葉子
草木の聲
緑 vol.1
Photo by 田口葉子
草木の聲
白樫 vol.1
Photo by 田口葉子