紅葉名所の塔頭でトーク

 「こんな場所で展示できるなんて感激です」

 紅葉の名所として通天橋からの絶景が有名な東福寺(京都市東山区)。その塔頭である光明院で4月末、『真夜中の弥次さん喜多さん』などの作品で知られるしりあがり寿さんが住職の藤田慶水さん(42)と語るトークイベントがあった。

 

 室町期初頭に創建された光明院には、昭和を代表する作庭家・重森三玲による枯山水の庭園がある。大海を表す白砂に立石が並ぶ。「虹の苔寺」とも呼ばれるとおり、苔と砂の調和を見せる主庭を望む部屋で、しりあがりさんの個展が開かれていた。

 

 加熱した板に描かれたユーモラスな絵の数々。微笑の顔が並ぶ「まんだらさん」や「オヤジ」が描かれた円形の板が回転している作品のほか、「ぽっぽろーぷっぷるぺっぺれー…」という不思議な音声がお経のように響く趣向もあり、静寂が包む境内で「しりあがりワールド」が展開された。

心頭滅却すればCOOL!!

 個展のタイトルは「心頭滅却すれば火もまたCOOL!!」。「心頭滅却すれば火もまた涼し」という有名な禅の言葉にちなんだ題名の狙いを、しりあがりさんはトークイベントでこう語った。

 「禅寺での展示という機会をいただいて、ちょうど板を焼いて作品を作っていた頃だったので、有名な禅の言葉をもじってみた」

 

 そうして、しりあがりさんは「心頭滅却…」の意味について住職に尋ねた。

 「どんなことが起きても心が落ち着いた状態にいられることを指しています。日々、そうなれるよう頑張っております」

 そう語った住職は、臨済宗の専門道場での生活について、毎朝3時に起きて日の出まで座禅を組み、ぞうきん掛けや托鉢を経て、質素な食事と座禅尽くしの厳しい日課が365日続くことを説明すると、しりあがりさんは驚きつつも「仏教のすごさって、人生の知恵の集大成みたいな気がする」と感想を語った。

 厳しい修行の果てには何があるのか。住職は「悟り」について意外なことを口にした。

 

 「今の時、いろいろな情報を得ることで多くを知っていると思いがちですが、禅ではそれは知っているとは言えません。禅では体験のみが知識なんです」

 住職はそう解説した。

 「悟りに近づくにつれて、何でもスーパーマンのようになれると一般では思われているようですが実はそうではなくて、当たり前のことを当たり前と認識し、感謝できるようになることこそ悟りなんです」

 「えっ、悟れば何でもできると思っていました」。しりあがりさんが笑って応じると、住職は具体例を挙げて説明した。

 「例えば水が入ったコップ。倒れたらこぼれる。当たり前です。多くは、そこに『こぼしたら怒られる』とか心を付けてしまい自らを縛って慌ててしまう」

 ここで、しりあがりさんは一つの疑問をぶつけた。

子どもは悟っている?

 「コップの話で言えば、子どもは無心に近い感覚でこぼします。でも、子どもは悟ってないですよね」

 住職はうなずきながら、こう答えた。

 「子どもの感覚に近づけたら悟りに近いです。大事なのは、そこに自覚があるかどうか。自覚を持って子どもに近づく。しりあがりさんの作品が素晴らしいと思うのは、それに近いものを感じるからなんです」

 

 しりあがりさんは「僕は子どもみたいな絵しか描けないんです」と謙虚に笑いながら、禅の特徴について話を向けた。

 「禅は仏教の中でも特別に思えるのですが」

THE KYOTOへの会員登録・ログイン
続きを読むには京都新聞IDへの登録が必要です。
京都新聞IDのご案内はこちら