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「リーマン」で見た地獄 元外資系金融マン、農業に

農業ベンチャー社長の小野邦彦さん(右)は、かつて外資系金融機関に勤務し、リーマン・ブラザーズ破綻に伴う世界同時株安や市場の混乱を現場で目の当たりにした
農業ベンチャー社長の小野邦彦さん(右)は、かつて外資系金融機関に勤務し、リーマン・ブラザーズ破綻に伴う世界同時株安や市場の混乱を現場で目の当たりにした

 2008年9月15日の「敬老の日」、東京。外資系金融機関、BNPパリバの社員だった小野邦彦(34)は、友人の結婚式の2次会に出ていた。携帯電話に届いたニュースに気づき、見出しを一読して目を疑った。米投資銀行リーマン・ブラザーズが破綻。「そんなはずないだろう」。周囲のお祝いムードをよそに、心はざわついた。

 リーマン・ショック。その日始まった世界的な金融危機は、そう呼ばれた。震源は「サブプライム住宅ローン」。信用力が低い米国の住宅購入者に貸し出された高利融資だ。担保である不動産の値上がりを追い風に、リーマンなど欧米の投資銀行はサブプライムを組み入れた証券や金融商品を大量に売買し、もうけを上げた。だが、地価下落でバブルがはじけると、一転して巨額の損失を抱えた。

 サブプライム問題は07年から話題になっていたものの、金融関係者の間では影響があまり広がらないとの見方が強く、小野も対岸の火事と思っていた。実際は違った。米国の五大投資銀行の一角だったリーマンが破綻すると、それを引き金に世界同時株安が起き、日経平均株価は数カ月で1万円台から7千円台へと暴落。円高も進んだ。

 小野のいた東京支店も「地獄絵図さながらだった」。やり手で鳴らした同僚のフランス人トレーダーは相場の荒い値動きになすすべがなく、パニックになった。何人もの社員が解雇され、姿を消した。京都大を出て2年目の小野も早朝から深夜まで、取り扱っていた金融商品の損失処理や解約の対応に当たった。三食を職場の机で済ませる日々。「あの時何を食べていたか、全く覚えていない」

 影響は実体経済におよび、需要の急速な縮小で国内の大手企業も軒並み業績が落ち込んだ。多くの非正規労働者が雇い止めにされる「派遣切り」も起きた。

 それから10年。小野は今、畑違いの農業の分野に身を置いている。一連の後始末に見通しがついた09年5月にパリバを退職すると、大学時代を過ごした京都市で環境負荷の小さい農業を広めるベンチャー企業「坂ノ途中」を立ち上げた。学生旅行で訪れたチベットで自然と共生しながら暮らす住民に感銘を受け、胸に温めてきた計画だった。外資系金融に入ったのも、起業に必要な知識と資金を得るため。無農薬や有機栽培にこだわる農家から青果を仕入れて飲食店や消費者に売るビジネスを始め、試行錯誤の末に軌道に乗せた。

 農業に関わり、気づいたことがある。農薬を多用し、単一の作物を栽培する畑は一つの病原菌にやられやすい。半面、いろいろな種類の作物を育て、多様な生き物がいる畑は病気に強い。小野は「社会も同じ。人々の価値観が多様であれば、相場が行き過ぎることもなく、リーマン・ショックのような危機も起きにくいのでは」と考える。

 そんな思いとは裏腹に、投機的な動きはいまだになくならない。昨年から今年にかけても、仮想通貨ビットコインが高騰した後、一瞬にして急落する現象が起きた。「人が買えば自分も買いたくなり、人が売れば自分も売りたくなる。そんな均質な思考が支配する社会では、バブルが繰り返される」=敬称略

    ◇  ◇

 来年5月で幕を下ろす平成は、数々の経済危機が起きた。日本のバブル崩壊、米国発のITバブル-。そしてリーマン・ショックからちょうど10年がたった。過去のバブルの現場にいた京都、滋賀にゆかりの人たちの当時を振り返り、今に続く影響や新たな危機の芽に目を凝らす。

【 2018年09月14日 17時00分 】

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