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遺骨返還の風、京大拒否 <標本にされた「祖先」>

京都帝国大の清野教授がアイヌ遺骨を発掘した北海道根室市のオホーツク海沿岸部。根室から収集した17体を京大は現在も標本として保管している
京都帝国大の清野教授がアイヌ遺骨を発掘した北海道根室市のオホーツク海沿岸部。根室から収集した17体を京大は現在も標本として保管している

 昨年11月13日、京都市伏見区の龍谷大深草キャンパス。北海道から「コタンの会」代表清水裕二さん(76)が訪れ、アイヌ民族としての思いを学生に語りかけた。授業に招いたのは、京都帝国大助教授が沖縄から持ち去った人骨の返還を求めている経済学部の松島泰勝教授(沖縄出身)。

 清水さんは「アイヌモシリを北海道という名に勝手に変えられた。家をアイヌ語で『チセ』と言いますが、政府は『官有地第三種』として奪い去った」と旧土人保護法(1997年に廃止)などで抑圧された歴史を語る。「山で実を採っても罰せられた。北海道大や京大がアイヌの墓地をあばき、研究材料にされたんです」

 北大を相手取った遺骨返還訴訟の記録映像が教室で上映され、原告で訴訟中に亡くなった城野口ユリさんがアイヌ歌謡を歌う。

 それは13歳ほどの女の子が奉公先で主人の性的暴力を受けて祈る歌。カラスの神よ、こんなつらいことになったよ。カラスの神よ、故郷の父さん母さんに海を越えて伝えてよ。

 歌の意味を清水さんが説明する。この歌を聴くたびに泣けてしまう、と。学生の私語でざわつく大教室。配布レジメに記された「エカシ」を説明するとき、「私語をやめないか!」と一喝した。

 静まりかえる教室。「エカシは翁(おきな)という意味だけども、年をとれば誰でもエカシと呼ばれるわけではない。厳格な3条件があるんです。ラメトク=勇敢であること。シレトク=威厳を備えていること。パエトク=雄弁であること。その例えとして、ちょっと声を出しました」。自分はエカシではないとも。

 講義を終え、清水さんと松島教授が京大総務課(左京区)へ向かう。アイヌ遺骨返還運動に取り組んでおり、京大の遺骨情報を知りたいとの来意を告げてあったが、玄関のガードマンを介して「会う必要はない」。建物入り口で総務課に電話する松島教授ら。「北海道から来たんです」「アイヌ遺骨報告書を見せてもらえませんか」

 総務課は「今お会いしてお話することはありません。名刺交換の必要性はありません」。なぜですかと松島教授。「その理由もお示ししません」

 たたんだアイヌ民族衣装を手に玄関前に無言で立つ清水さん。威厳と静かな怒りがあった。面会で着るつもりでしたかとは、記者はなぜか聞けなかった。

 ドイツの学術団体が昨年、外交ルートを通じアイヌ遺骨を北海道アイヌ協会などに返還した。オーストラリアの博物館もアイヌ遺骨返還を交渉中だ。台湾大は帝国大時代に日本人研究者が台湾少数民族の居住地や沖縄から掘り出した遺骨を、それぞれの古里に返還すると申し出た。世界で、人骨標本を先住民族や本来の共同体に返還する新しい風が吹いている。

 京大医学部教授の清野謙次が論文でアイヌ遺骨17体を発掘したとする北海道根室市のオホーツク海側沿岸を歩いた。アイヌの人々が暮らしたなごりに行き当たらず、強く冷たい海風が鳴っていた。

 ◇

 「広島のものは広島に。長崎のものは長崎に」。それが、米軍が京大などから持ち去った被爆者の病理標本などが、1973年に返還された時の原則だった。大事な原則だと思う。調査した学者ではなく、患者や子孫が暮らす地域へ。そこで複数の資料が有機的に結びつけば、研究は生かされ、語り継ぐ礎となる。

 遺骨を持ち去った京大の医師たち。時代の多数者の側の要請と、研究目的という「大義」はあったのだろう。だが得られた知識を現地の人に返さず、奪われる側の痛みにまひすれば、どうなるだろう。旧満州にあった関東軍防疫給水部「731部隊」では京大出身の医師たちが細菌戦の実験や多数の人体解剖を行ったが、その成果は軍事機密の闇に閉ざされたままである。

 医学は、正常と異常を区別する学問だ。大多数の側に立ち、少数者を「異常」や「劣ったもの」と見なし、犠牲にする危うさは、現代も付きまとう。奪い去る側に立たないために、歴史をたどり直すことが問われている。

(12回続きの11回目)

【 2018年01月22日 17時00分 】

ニュース写真

  • 京都帝国大の清野教授がアイヌ遺骨を発掘した北海道根室市のオホーツク海沿岸部。根室から収集した17体を京大は現在も標本として保管している
  • アイヌ遺骨や沖縄で発掘された遺骨の情報開示を求めて京大総務課を訪れたものの、面会を断られ帰途に就く清水さん(右)と、龍谷大松島泰勝教授=2017年11月13日、京都市左京区・京大
  • アイヌ民族の思いを語る清水裕二さん(2017年11月13日、京都市伏見区・龍谷大深草キャンパス)
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