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即戦力へ「実学重視」の大学 役割変化、期待と危惧

人材育成への思いを新入生と保護者に訴える永森重信理事長(4月1日、亀岡市・京都学園大)
人材育成への思いを新入生と保護者に訴える永森重信理事長(4月1日、亀岡市・京都学園大)

 「皆さんに社会で即戦力になってもらうため、この大学はどんどん変わる」。今年4月1日、亀岡市の京都学園大で開かれた入学式。学校法人理事長に昨年就任した永守重信氏は、新入生を前に意気込みを語った。

 モーターメーカー日本電産(京都市南区)を創業し、グローバル企業に育てたカリスマ経営者として知られる永守氏は、私財を投じて大学改革に乗り出す。来春に大学名を「京都先端科学大」と改称。「実学」を重視し、モーターなどを学ぶ工学部の設置を計画する。大手英会話教室の教員を動員し、日常会話が十分にできる語学力習得も全学生に義務づける。目指すのは、専門性と国際性を身につけた、世界水準で活躍できる人材の育成だ。

 永守氏が大学運営に乗り出す背景には、偏差値や受験テクニックが幅をきかせる教育への疑問がある。同氏は「京都大や東京大の出身者が、必ずしもいい仕事をしていない。人材育成の面で、大学と企業の間でミスマッチが大きくなっている」と語る。

 変化を目指すのは同大学だけではない。日本の教育全体が、急速な国際化や情報技術革命を背景に大きく変わろうとしている。

 新たな方向性として、小中学校や高校の新学習指導要領は、従来の知識・技能に加えて、判断や表現する力、学習と向き合うといった人間性の三つを柱にすえた。中学高校では「主体的・協働的な学び」が実践される。大学入試も連動して、従来の試験にはなかった「主体性」などの評価が導入されつつある。2020年度には小学校高学年で英語が正式教科となり、成績評価も行われる。

 文部科学省の担当者は「数十年前の高度経済成長期と違い、今は将来が非常に不透明。従来のように知識を習得・表現するだけでなく、自ら見つけた課題に取り組む力や、新しい価値を創造する能力が求められている」と教育改革の狙いを語る。

 暗記で詰め込んだ知識は、今はインターネットで調べればすぐに答えが得られる。人工知能(AI)の進歩で、現在の仕事の多くがロボットなどに取って代わられるとの見方もある。旧来型の教育では激動する社会に対応できないという危機感が、教育行政にはある。

 文科省が掲げる人物像は、経済界の要望とも合致する。経団連が今年実施した企業アンケートでは、学生に求める資質として「主体性」、「課題を設定し解決を図る能力」が文系、理系を問わず上位に位置する。

 新たな時代に活躍できる人材の育成に教育現場が力を入れる中、実学偏重を危ぶむ見方もある。大学の役割の変化に詳しい同志社大の山田礼子教授(高等教育論)は「大学には元々、研究と教育(人材育成)、社会貢献の三つの大きな使命がある。ところが近年、国や企業、社会も後の二つを強く求める傾向が強くなっている」と指摘する。「学術研究の拠点として危うくなっている大学も、すでに出始めている」

 <学びアップデート 過熱する「人材」教育1>  社会の激しい変化の波は、大学をはじめ、高校や中学、小学校までも巻き込み、学びの形を変えようとしている。大きなうねりの中で、新たな教育を模索する現場を点描する。

【 2018年11月06日 15時53分 】

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