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助かる命とためらう心 <変わる生の形・脳死の倫理>

肺移植がかなわずに亡くなった患者との写真を前に、移植医療の現状を語る伊達教授(京都市左京区・京都大)
肺移植がかなわずに亡くなった患者との写真を前に、移植医療の現状を語る伊達教授(京都市左京区・京都大)

 脳死ドナーからの臓器移植で救える命は少なくない。だが日本臓器移植ネットワーク(JOT)によると、毎年約1万4千人の臓器移植の希望登録者がいるが、実施された移植は2~3%で推移する。「助かるはずの命が失われている」という。一方で「脳死での臓器移植をためらう気持ちも分かる」と明かす医師もいる。脳死状態の患者の延命か、臓器移植か。さまざまな思いが交錯する移植医療に携わる医師たちの心のひだをたどった。

 「希望者の半分近くが、移植できずに亡くなるんです」。国内最多レベルの肺移植を行う京都大呼吸器外科の伊達洋至教授(58)は、20年前に患者と撮った写真を前に語る。臓器移植法が施行されて間もない1997年12月、肺の難病で肺移植を待つ中学3年の女性患者を担当した。両親との血液型が合わないため脳死ドナーを待ったが、願いはかなわず98年春に亡くなった。「一緒に写真を撮って」。人なつっこい声が耳に残っている。「どうしてあげようもなかった」。移植技術があっても、ドナーがいなければ患者は救えない。

 2016年の全国での肺移植は49件。本人の意思表示がなくても家族の承諾で移植できる改正臓器移植法が10年に施行され、09年の9件から大幅に伸びた。だが、移植という望みのかなう患者はまだ少ない。

 伊達教授は、1989~91年の米国留学時代、脳死下で肺移植が施される現場を目の当たりにした。酸素吸入しながら苦しそうにしていた人が、元気に歩いて帰って行く。「すごい医療やな」。93~95年、再び渡米し脳死下での肺移植の技術を学んだ。JOTによると、米国における人口100万人当たりの亡くなった人からの臓器提供の件数は、日本の約40倍というデータがある。伊達教授は背景について「日本には、脳が死んでも体が温かいと提供に抵抗を持つ人が多い」とみる。

 脳死について自身の感覚としては「意識はなく死んでいる」と思う。しかし「抵抗のある人の意思は尊重されるべきだ」と強調する。「脳死下での臓器移植の増加を望むが、何が何でも進めなければ、という訳ではない」

 脳死状態の患者を前にして、延命と臓器移植のどちらを選ぶか。家族へ選択肢を示すのは容易ではなく、医師の間で葛藤もある。

 京都岡本記念病院副院長の清水義博医師(57)は、脳死者の家族と主治医の間に立つコーディネーターの役割を院内で担う。「患者や家族が移植を望んでいた場合、その意思を聞きそびれてはならない」と強く意識する。「脳死は回復しないが、臓器移植を通して、失われる命を別の命につなげられる」

 一方で医師が皆、同じような考え方ではないとも実感している。患者が脳死状態であっても臓器移植の選択肢を家族に示さない主治医は多いという。ただ「少しでも延命したいと努める故に臓器移植の選択を示せない医師も、患者や家族にとっては『信頼できる先生』です」と理解を示す。

 現行の法律では臓器移植する時に限って、「脳の機能不全は人の死」という脳死の定義が適用される。臓器移植を選ばなければ「死」ではない。「現行法では脳死が人の死か、一律には決まっていない。そんなあいまいさがいいのかもしれない」。清水医師はそう思っている。(全12回の7回目)

  ◇

 京都新聞では、iPS細胞が誕生してから10年となるのに合わせて、2016年から連載「いのちとの伴走」を掲載してきた。研究の最前線に加えて倫理やビジネスなどさまざまな角度から、iPS細胞が社会に及ぼす影響を探った。iPS細胞が切り開く未来はまだ不透明だが、一方でロボットや脳を扱う科学は既に、私たちの生命観に変容をもたらしている。最後となる第6部では、現代科学が変えつつある「生の形」の全体像を描き出したい。

【 2018年01月18日 10時59分 】

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