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コラム凡語:国友一貫斎

 望遠鏡作りの最大の難関は反射鏡の鋳造だった。作ってはみたが、銅と錫(すず)の配分が悪くすぐに割れた。落胆する周囲に主人公は「まだ一回失敗しただけです。これから何度でもやってみますよ」と自ら鼓舞する▼2012年に本紙で連載された故山本兼一さんの小説「夢をまことに」の一場面である。主人公である江戸後期の科学者、国友一貫斎(いっかんさい)が生まれて今年で240年になる▼現在の長浜市の鉄砲鍛冶の家に出生し、日本で初めて反射望遠鏡を作って太陽の黒点を観測した。数々の発明から「東洋のエジソン」とも称される▼山本さんが描く一貫斎は創作ではなく、史料の裏打ちがある。鉄砲作りの知見をまとめた「能当(よしまさ)流鍛冶術」で一貫斎は「五回や十回の失敗は普通のことであるから、それに耐えていくために、いつも健康でなければならない」と説いている▼戦後、高い技術力に支えられてきた日本の製造業が苦境に立っている。労働コストの低い新興国が台頭し、為替レートにも振り回される。復活への処方箋を見いだすのは容易でない▼一貫斎自身、望遠鏡の完成に十数年を要している。苦境や失敗に直面してもへこたれずに取り組んで道を切り開く。郷土の偉人にしてものづくりの大先輩は粘り強く事に当たる大切さを現代の私たちに示している。

[京都新聞 2018年09月17日掲載]

【 2018年09月17日 16時00分 】

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