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音で運動の「やる気」にスイッチ ビート数がカギに

運動に適した曲を紹介する環境音楽家の小松教授(京都市左京区・京都精華大)
運動に適した曲を紹介する環境音楽家の小松教授(京都市左京区・京都精華大)

 健康で長生きするためには適度な運動がいい。だけど、分かっていてもどうしてもおっくう-。そんな人は多いはず。ではやる気を奮い起こすために「音」を使えないか。大学の研究現場を訪ねた。

■正しい動作 メロディー奏で 筋電センサーで音変換

 「ティララララ、リラリラ」。キーボードの電子音がパソコンのスピーカーから響く。腕に力を入れると音が高くなり、力を抜くと音が低くなって鳴りやむ。速さも変わる。いいメロディーを奏でようと、むきになってしまう自分がいた。

 立命館大びわこ・くさつキャンパス(草津市)内にある理工学部の研究棟で体験させてもらった。腕に小型の筋電センサーを着け、筋肉の発揮力に応じてパソコンソフトで音に変換する仕組みだ。生体工学が専門の岡田志麻准教授は「スポーツに楽しさはあるが、そこに到達できない人には芸術や音楽のエッセンスがあると運動が楽しいかなと思って」と研究の動機を語る。

 スポーツ庁の調査で成人の週1日以上のスポーツ実施率は2017年度で51・5%。目標とする65%には届いていない。同大学は運動の生活カルチャー化を目指す国の事業拠点の一つとして、着るだけで心拍数や発汗などを測れるスマートウエアの開発を進める。さらなる運動の習慣化を図るため、岡田准教授らが見据えるのはデータの可視化の先にある可聴化だ。「運動中にデータを見ることは難しい。使う側にとってわかりやすい情報にフィードバックするには音がいい」

 音の調整に関しては作曲家でもある東京芸術大の小川類特任准教授が担当。運動との組み合わせは順天堂大の研究者が検証する。例えばスクワット運動。繰り返すことで童謡「かえるの歌」を奏でるが、重心の位置、筋の発揮力、リズムによって音がずれるため、正しい動作の習得にもつながる。ランニングやスポーツクライミング、ボッチャでも音変換を応用し国内外のイベントで実演している。

 2年前にプロジェクトを開始した岡田准教授らのグループは、2020年の東京五輪・パラリンピックに合わせて事業化する目標を立てる。岡田准教授は「ヘルスケアやスポーツメーカーと連携する話がある。想定したよりも使い道が広がっている」と実感する。

■体に合ったビート刻む 「はかどる」曲

 「家事がはかどる音楽」なるものを、昨秋に大手電機メーカーがつくったと聞いた。制作に当たってアドバイスしたのは、環境音楽家である小松正史・京都精華大教授。「運動がはかどる音楽もあるのでは」とふと思い、小松教授にサンプル作成をお願いすると、適した4分ほどのオリジナル曲を二つ用意してくれた。

 まずウオーミングアップやジョギングに向く「動的運動」のバージョン。一定のビートを刻み次第に音が増える。心地いい和音。爽快感とともに体を動かしたくなる高揚感に包まれる。一方、クールダウンやヨガに向く「静的運動」はゆったりとしたテンポで滝の音と雅楽の笙(しょう)が溶け合い、電子ピアノが静かに流れる。深呼吸して体をぐーんと伸ばしたくなる気がする。

 秘密はどこにあるのだろう。小松教授が第一に挙げるのが、1分当たりのビート数(BPM)だ。「動的」は112。大人の通常時の心拍数は60~90で、やや激しい運動をした時の心拍数に近いという。一方「静的」はBPMを78に設定。安静時の心拍数でリラックスした精神状態に導く。曲に多少の変化を付けることが運動の持続につながる。

 音色は好みに合わせていいが、「運動という行為を主体に置くなら音楽には集中しすぎない方がベター」とも。つまり歌詞がなく、程よい音量にして、音の高さは赤ちゃんの激しい鳴き声などと同じ3千~4千ヘルツの周波数は避ける方が効果的という。

 音を聞き分けることで脳の活性化につながる「耳トレ」を提唱する小松教授。音によって位置の把握ができる原理を応用し、おもしろい仮説を立てる。「スポーツは動体視力が大事だが、聴覚も鍛えることで認知力を格段に底上げできる。野球の打者なら、選球が良くなるかもしれません」

【 2019年05月02日 10時30分 】

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