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南座新開場

 安宅の関を抜け、陸奥(みちのく)へ旅立つ弁慶と義経。その後ろ姿を見守る関守富樫-。歌舞伎「勧進帳」の終幕は、富樫役の松本白鸚が3代襲名披露の息子と孫の活躍を祈る目線と重なって見えた▼弁慶は松本幸四郎、義経は市川染五郎。花道を退場する幸四郎に寄せた満場の拍手は、大御所が相次ぎ亡くなり、中堅の活躍を願うファンの気持ちだろう▼3年ぶりに南座に顔見世が帰ってきた。江戸初期に芝居小屋が立ち並んだ四条河原で唯一興行を続ける。息づかいすら伝わる役者との近さが魅力だ▼歌舞伎の語源は中世末期に自由奔放に振る舞った「傾(かぶ)き者」。出雲の阿国などの女歌舞伎や若衆(わかしゅ)歌舞伎が江戸幕府に禁じられ、男性が女性に扮(ふん)する独特な演劇世界を築いた。能や浄瑠璃の要素も取り入れ、数々の工夫が凝らされた▼新生南座では演出の可能性が広がり、人気漫画が原作の新作歌舞伎「NARUTO」や、バーチャル歌手と本物の役者の共演なども予定されている。裾野を広げるには新しい取り組みも確かに必要だろう▼「型破りは型を知っていてこそ成立する」。スーパー歌舞伎で革新に挑んだ市川猿翁の言葉は示唆に富む。先人の努力への深い理解なくして真の革新はない。南座には伝統を踏まえつつ、閉塞(へいそく)した時代に「傾き」の神髄を見せてほしい。

[京都新聞 2018年11月20日掲載]

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