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本の運命

 2DKの住居に蔵書が3万2千冊…とは想像を絶する。評論家の故草森紳一さんはこんな環境で暮らしていた。本の山が崩れ、浴室に閉じ込められたこともあった▼驚かされるのは亡くなった時のことだ。積み重ねられた本の合間に横たわっていた草森さんを、安否の確認に来た編集者も初日に見つけることができなかった(西牟田靖「本で床は抜けるのか」)▼読書家の蔵書はなぜ増え続けるのか。本には著者の知恵や執筆の努力が詰まっている-。そう考える人が多いから、入手した本を容易に手放せないのだろう。本を粗末に扱うなど、想像できないかもしれない▼昨夏、高知県立大が新図書館に蔵書を移す際、収容しきれなくなった約3万8千冊を焼却処分していたことが分かり、批判を浴びた。京都市の図書館でも仏文学者の故桑原武夫氏の蔵書を職員が無断廃棄した問題が記憶に新しい▼物議を醸した背景には、本を捨てる行為への抵抗感がうかがえる。図書館の多くが手狭になり、保管や受け入れが難しくなっている事情もあるが、本は単なる紙の束ではないとの考え方はいまだ根強い▼京都府南部で図書館の蔵書とみられる本の大量投棄が次々と見つかっている。捨てた理由は何なのか、廃棄することへの迷いはなかったのか。気になるところだ。

[京都新聞 2019年05月21日掲載]

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