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樹木希林さん逝く

 樹木希林さんの訃報を聞き、2012年の映画「わが母の記」を改めて見た。認知症が進む母親役の樹木さんと見守る家族。徐々に記憶が失われてゆく樹木さんの演技はリアルで、存在感は圧倒的だ▼幼い息子を他人に預けた心の痛みを引きずり、目の前にいる息子が誰か分からなくなっても一途に思い続ける。過去に思いをはせるように視線を泳がせ、つぶやくような言い回しが印象深い▼テレビやCMでもおなじみだった。ドラマ「寺内貫太郎一家」の主人公の母親役を30歳前後で演じ、老け役や年配女性の役が板についた。飾らず、自然体で、どこかコミカルな雰囲気も漂わせていた▼「全身ががんなので」と5年前に公表して世間を驚かせたが、その10年前には網膜剝離で左目が失明状態になり、翌年には乳がんが発覚した。そんな状況でも淡々と仕事に取り組み、映画「あん」「万引き家族」などで味わい深い役を演じた▼がんが全身に転移し「手の施しようがないが、このままでもいいかな」。死に対しても自然体を貫いていたようにみえた。撮影が終わると台本は処分し、衣類など1日1点は捨てるようにしていたとも▼後に何も残さず「いつの間にか消えているのが理想」と話していたが、独特の個性と演技力は人々の記憶に長く残るに違いない。

[京都新聞 2018年09月19日掲載]

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