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京都の建物疎開

 それこそ突然、玄関に「疎開票」が貼られた。1、2週間のうちに家を明け渡さないといけない。所有者に交付された譲渡命令書は「建物に対する赤紙」と呼 ばれ、喜んで応じるべきとされた▼京都府立総合資料館の川口朋子さんがこのほど出した「建物疎開と都市防空」(京都大学学術出版会)を読んで引き込まれ た。戦時中の京都の建物疎開を論じる初めての学術書だが、聞き取りで体験者の内面にも光を当てている▼家屋取り壊しに中学生らも動員され、柱に切り込みを 入れて縄で引き倒す。土煙がおさまると、燃料用に廃材を近所の人が持ち帰っていく。その様子を見ていた家族の心中はいかばかりだったか▼空襲の延焼防止に 堀川通の西側、五条通と御池通の南側の家や店が壊された跡が、今は立派な幹線道路になっている。京都の人々がよく知る歴史だが、線引きで生活や地域を破壊 された疎開者の無念を想像したい。五条通に本籍を残したままの人もいる▼1944年7月の第1次から第4次にわたった建物疎開は、記録のある3次までで約 1万1700戸に上る。空襲は少なかった京都だが、これも戦時行政による戦災と言えよう▼建物疎開の根拠となる防空法公布は開戦前の37年。ある日突然と ならぬため、今こそ戦争への足音に敏感でいたい。

[京都新聞 2014年08月16日掲載]

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