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タヌキ、宇宙に行く

 信楽焼のタヌキの置物がひそかに宇宙に進出していたことを知る人はほとんどいないだろう。いや、ひそかにではなく、威風堂々と旅立っていた。お正月だからといって、ほら話をするのではない▼話は終戦直後の東京・神田にさかのぼる。進駐軍の仕事をしていた男性が、米軍相手に刺しゅうパッチなど雑貨を納入する商売を始めた▼1964年、日本勤務の海軍中佐から士気を高めるためのトロフィーの注文を受ける。なぜか飲食店の店先でよく見るタヌキの置物がいいということになった。信楽産の子連れの雌タヌキが納入された▼トロフィーは毎年、海軍の最高の戦闘機部隊に与えられ、「パイロット魂」の象徴として受け継がれるようになった。各地の部隊を渡り歩き、ついに2010年、海軍出身の飛行士とともにスペースシャトルに搭乗する▼「本当に不思議な話です」と、亡くなった父・太郎さんの商売を継いだ小川智弘さん。小川さんは今月、新しいトロフィーを友好の証として米軍に贈呈する。信楽の窯元で作った雄タヌキだそうだ▼日本にはさまざまな縁起物やキャラクターがあるが、宇宙一番乗りはきっとタヌキの置物だろう。「他抜き」の真骨頂かもしれない。戦後70年の今年、ほかにもびっくりする話がたくさん隠れている気がする。

[京都新聞 2015年01月03日掲載]

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