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脱出の日

 脱出劇を描いた映画は多い。ドイツ軍の捕虜収容所で250人もの脱走を企てる「大脱走」は言うに及ばず、鉄壁の刑務所からの脱獄に挑む「アルカトラズからの脱出」「パピヨン」も名作に数えられる▼渋いところでは「さらば友よ」がある。連行されるチャールズ・ブロンソンのたばこにアラン・ドロンが火をつけるラストシーンが有名だが、閉じ込められた金庫室から2人が脱け出す場面も見所だ▼きょうは「脱出の日」と呼ばれる。1815年、ナポレオンが追放されていたエルバ島から脱け出した日にちなむ。パリに戻って復位するが、ワーテルローの戦いで敗れ「百日天下」に終わるのは、ご存じの通りだ▼ナポレオンは映画に最も多く登場する歴史上の人物だという。欧州の大半を征した英雄として頂点を極めながら、幽閉先の孤島で最期を迎える波瀾(はらん)万丈の生涯や、数々の逸話を思えば納得できる▼その一つにエルバ島脱出を伝える当時の新聞見出しがある。ナポレオンの呼び方だけをみても、最初は「怪物」「鬼」と散々だが、パリに到着するや「皇帝」「皇帝陛下」に一変する▼この逸話には、諸説あるようだが、よく新聞が権力にすり寄る例に挙がる。いま、この国でも強大な権力がかっ歩する。200年の時を超えて、他山の石としたい。

[京都新聞 2015年02月26日掲載]

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