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出会い

 花の季節だ。ツツジやシャクヤク、ヤマブキに彩られた野山は、新緑とのコントラストもまぶしい。タンポポやシロツメクサで花冠を作り、レンゲの蜜を吸 う。茎を絡めて引っ張り合う草相撲…。幼い記憶は、春の野に向かう▼野辺の花を慈しむ心は万葉歌にも残る。<春の野にすみれ摘みにと来し我そ野をなつかし み一夜寝にける>の穏やかな一首は、山部赤人の代表歌に数えられる▼明治-昭和期の俳人高浜虚子は<犬ふぐり星のまたたく如くなり>と、道端の小さな花に 目を止めた。山口青邨は<咲き満ちて庭盛り上がる桜草>と、一面を埋め尽くす旺盛な生命力をたたえた▼いけばなの世界も春と秋がにぎわう。栽培技術や運送 環境が整い、今や大抵の花材は国内外の産地から時季を問わず手に入る。しかし「花は足で生けよ」の言葉もある。季節感が欠かせない▼切り花となれば、その 盛りはより短くなる。先ごろ京都市内で野外展を開催した華道家は「いけばなは枯れるからこそいい」と。短命だからこそ、人は、愛(め)でたい、自分と関係 を深めたい、その命を大切にしたいと願う▼一瞬一瞬に表情を変えるいけばな。出合った時の輝きは、その瞬間にしかない。だからこそ魅せられる。それは人と の出会いも同じだ。春はまた、出会いの季節でもある。

[京都新聞 2015年04月18日掲載]

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