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羽衣

 漁師が手にした羽衣を返してもらうため舞を舞い、やがて天空の霞(かすみ)に消えていく天女を描く能「羽衣」。バレエの「白鳥の湖」と同様、分かりやすくて世界に通じる演目として海外でもたびたび上演されてきた▼今月10日、ロシア・サンクトペテルブルクのエルミタージュ劇場で金剛流宗家が演じた舞台を見た。華やかな宮廷劇場に朗々とした地謡や笛、鼓が響き、静かな舞が夢幻の世界に誘う▼バレエになじんだお国柄、気品のある立ち姿や指先まで気持ちを巡らせた所作が観客の目をくぎ付けにしていた。「能は理解するものではなく、感じていただく舞台芸術」。演能前の説明が通じたのだろうか▼「和製コッペリア」とも言われる歌舞伎舞踊の「京人形」や狂言の「棒縛(ぼうしばり)」。日本の伝統芸能には、海外と主題や笑いのツボが似た演目が少なからずある▼日本文化の発信に「クールジャパン」が掲げられて久しい。その代表は、ゲームや漫画、アニメ、音楽などポップカルチャーだ。2020年の東京五輪に向け、官民挙げて新たな魅力の創造が促されている▼思えば、それらの底流には時代の波にもまれつつ受け継がれてきた芸道の歴史がある。能楽も歌舞伎も、もともと大衆に親しまれた芸能だった。連綿と続く日本文化のさらなる深化と広がりを願う。

[京都新聞 2015年07月18日掲載]

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