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送り火

 きょうは五山送り火。多くの人が夜空を焦がす炎に手を合わせ、亡き人の霊を見送ることだろう。先日、猛暑の中、送り火で最初に点火される大文字の火床を目指した▼急な坂道や階段に息が上がる。噴き出す汗を拭いながら半時間足らず。眼下に広がる京の街は輝いて見えた▼戦時中の1943年のこの日。白い服装の子どもや大人が同じように山を登り、朝日に映える街を望んだ。火床に沿って並んでラジオ体操を奉納し、白い「大」の字を浮かび上がらせた▼<“白く律動する大文字”は夏山の斜面に大きく展開され>。翌日の京都新聞は報じる。男手は戦場に赴き、灯火管制は厳しくなっていた。この年から終戦までの3年間、送り火は中止になった。白い大文字は戦意高揚の意味もあったという▼送り火の起源は、はっきりと分かっていない。それは時の権力者ではなく、民衆の信仰から始まり、継承されてきたためという見方がある。民衆が営々と続けてきた伝統行事をいとも簡単に中断させたのが、国家による戦争だった▼戦後70年。「違憲」の声に耳を傾けない政権は安保関連法案の成立を急ぎ、国民は戦争に巻き込まれるのではないかと懸念を深める。送り火を毎年迎え、家族の幸せや健康への願いを託せる喜び。再び途絶えさせてはならない。

[京都新聞 2015年08月16日掲載]

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