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大工の「うそ」

 「大工のうそ」というせりふが山田洋次監督の映画「おとうと」にあって印象に残っている。主人公の家の洗面所のドアが開きにくいのを見て、若い大工が言う▼ドアは垂直に取り付けるものだが、重みで傾くのを計算してほんの数ミリ上に傾けて付けると良い。「これを大工のうそという」と胸を張るシーンである▼京都府の現代の名工、荒木正亘(まさのぶ)さん(82)=京都市右京区=は、大工には何百年前からの決まりごとがあり、それを守らんといかん、という。木の性質や経験を踏まえた決まりであって、しっかりした理由がある(「町家棟梁(とうりょう)」学芸出版社)▼屋根の破風の合端(あいば)の上にすき間を作っておくのは、木の含水率を想定してのこと。3年もすればピタリと納まる。「これは棟梁の仕事です」との言葉に誇りを感じる▼さて、マンションのくい打ち不正とデータ改ざんである。見えない所こそ手を抜かないのが大工のプライドだが、マンションはどうか。業者幹部がいみじくも漏らした、「してしまう環境」が広がっていないか▼荒木さんは、京の町家では出入りの大工と施主が家を長持ちさせる付き合いをしてきたという。はたしてマンション建設の際、居住者の顔を思い浮かべることはあるだろうか。文字通りのうそをついてしまう環境が、そこにある。

[京都新聞 2015年11月07日掲載]

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