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平和を詠む

 りゅうと伸びた青ネギが朝市で目にとまった。寒さの増すこれからが旬。葉の内側のぬめりが厚くなり、そこに凝縮された香りと甘みが鍋の中で一層引き立つ▼<どれもみな甲種合格ねぎ坊主>と詠んだのは向日市の宮垣博光さん。小紙の投稿欄「京都文芸」の入選作だ。坊主頭に似たネギの花に、かつての徴兵検査の記憶を重ねたものか▼平和・戦争の句歌が目を引いた一年だった。<戦争を許さぬ兜太(とうた)雲の峰>は長岡京市のみつきみすずさん。そう言えば、今年の新語・流行語大賞の候補「アベ政治を許さない」の文字を揮毫(きごう)したのが、96歳の俳人金子兜太さんだった▼若き日に海軍士官として赴いた西太平洋の島で、補給を絶たれた金子さんの部隊は極度の飢えに苦しみ自壊した。捕虜生活を経て復員船に乗った時の句<水脈(みお)の果て炎天の墓碑を置きて去る>が後半生の原点という▼その金子さんも開戦時には「血湧き肉躍るもの」を感じたと著書で明かしている。12月8日、多くの国民が真珠湾攻撃の報に熱狂した。新聞も鼓舞し、アジア解放の「聖戦」をうたう詩歌で投稿は一色になった▼<寒いほど粘るんどすえ九条ねぎ>。先日、憲法9条に掛けた投句を東京の新聞で読んだ。作者は高松市の島田章平さん選者は金子さん。戦後70年間の平和を思う。

[京都新聞 2015年12月08日掲載]

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