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天才の予言

 誰しもが天才と認めるアインシュタインが存在を予言した「重力波」を米国チームが初めて観測した。凡人は100年前の天才の理論に物証が見つかったと思うほかないが、研究者は興奮気味だ▼アインシュタインは1922年、研究に脂の乗り切った43歳のとき、一度だけ日本を訪れた。大正デモクラシー真っただ中、時代を象徴する総合雑誌「改造」の出版元社長が招待した▼43日にも及ぶ日本滞在中、一般向け講演も精力的にこなした。天文学ブームもあって満員の盛況で、駅頭は出迎えで埋まった。「日本人は科学を尊ぶ」「ああ愉快だ」と談話を残している▼京都では知恩院にも立ち寄った。除夜の鐘で知られる大鐘の下に自ら立って僧に打たせた。鐘の真下は音波が相殺し音が消えることを実験したかったようで、気さくな人柄を印象づけた▼博士の理論の歩みは第1次世界大戦と切り離せない。近代兵器を駆使した史上初の総力戦の後、一部の理論を英国の天文学者が裏付けた。敵と味方に分かれていた科学者が、真理の前に手を携えたことが世界の感動を増幅させた▼米国に後れを取ったとはいえ、日本や欧州も重力波望遠鏡観測にしのぎを削る。良き競争に期待したい。広大な宇宙の謎に迫る知恵を一つにしないと、博士に舌を出されてしまう。

[京都新聞 2016年02月13日掲載]

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