凡語 京都新聞トップへ

たんす預金

 買い物や電車に乗るのも「ピッ」と財布を出さずに済む時代に、昔ながらの金庫が売れている。ホームセンターに特設売り場ができ、前年比売り上げが倍増ペースというところもあるようだ▼銀行などに預けず自宅内で現金をため置く「たんす預金」用だ。家庭用の人気に火がついたのは1月下旬からで、日銀がマイナス金利政策を決めたのと重なる▼貸す方が金利を払うという価値観逆転への不安に加え、すずめの涙の利息がさらに細り、引き出し手数料で足が出るならとの損得勘定もあろう。全世帯のたんす預金は40兆円規模との推計もある▼金融不安に覆われた十数年前、銀行幹部が「貸金庫の方が安心と言われる」と自虐的に話していたのを思い出す。たんす預金は災害や盗難、日銀が目指すインフレで目減りする恐れもあるが、売れ筋で3万~5万円出しても金庫保管の方が信用できるということか▼企業のため込み体質も根強い。過去最高益の大手も、景気の先行きが不安だと設備投資や今春闘の賃上げにも慎重で、内部留保はアベノミクス開始から50兆円以上増えた▼政府の金庫だけ緩いが、そのお金が企業から個人消費へ回っていない。今の暮らしの豊かさに役立てる流れにどう切り替えるか。衣服のごとくたんすの肥やしにしてはもったいない。

[京都新聞 2016年03月17日掲載]

バックナンバー


凡語 書き写し
 
著作権は京都新聞社に帰属します。
ネットワーク上の著作権について(日本新聞協会)