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長岡の花火

 この夏、画家山下清の代表作「長岡の花火」を見る機会があった。新潟県の信濃川畔に上がる大輪の花火を描いた貼り絵は美しかった。観衆全て後ろ姿の構図はまるで夜空を拝んでいるようだ▼彼は軽度の知的障害があった。「裸の大将」や「日本のゴッホ」といったキャッチフレーズが強烈で、生前は正当に評価されたかどうか疑問だが、没後に各地で開かれる作品展で人々を引きつけていることこそ真の評価なのだろう▼1971年7月、49歳で亡くなった。「今年の花火見物はどこに行こうかな」と家族に語ったのが最期の言葉だ。花火に魅せられ、長岡を訪れたのは49年のことだった▼長岡の花火は47年、戦災からの復興を願って再開された。毎年8月2、3日に行い1日午後10時30分の長岡空襲の時刻には慰霊の花火、真っ白な「白菊」を打ち上げる▼白菊は戦後にシベリアで抑留された花火師嘉瀬誠次さんが、生きて帰れなかった戦友に手向けたのが始まり。戦後70年の昨年8月7日に亀岡市、15日に日米開戦の地ハワイ・真珠湾でも上がった。戦没者を追悼し、国を超えて祈りを捧(ささ)げた▼長岡の花火を見た山下清はこんな言葉を残した。「みんなが爆弾なんかつくらないできれいな花火ばかりをつくっていたらきっと戦争なんか起きなかったんだな」

[京都新聞 2016年07月31日掲載]

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