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象牙と印鑑

 江戸時代、夫から妻への「三くだり半(離縁状)」に自分の印を押すことになっていたそうだ。すでに「ハンコ社会」であったわけだ▼証文などに押す実印は名主や町役人らに届け、いつでも照合できる印鑑帳がつくられた。「印形は首とつりかへ」と命の次に大切なものであったという(新関欽哉著「ハンコロジー事始め」)▼アフリカゾウの絶滅を防ぐため、ワシントン条約締約国会議は象牙の国内市場を閉鎖するよう各国に求める決議を採択した。ただし閉鎖対象は密猟や違法取引の原因となる市場に限定され、日本は管理制度があるとして全面禁止を免れた。印鑑業界はほっとしたかもしれない▼日本の象牙消費の約7割を占めるのが、実は印鑑という。象牙は耐久性がある一方で細工がしやすく気品がある。高価でも、「一生もん」と勧められたことがある。最近は開運印で売らんとしている▼禁輸前に合法的に輸入、登録された象牙が販売されるが、環境団体は抜け穴を指摘している。違法かどうか一般の客が見分けるのは難しい▼象牙文化を日本に伝えた中国は国内市場の閉鎖を表明している。世界の目は厳しくなりそうだ。年2万~3万頭のアフリカゾウが象牙を取るため密猟されているという。まず想像してみよう、当方のはスタンプ印だけど。

[京都新聞 2016年10月06日掲載]

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