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柿と茶畑

 冷気が戻り、近隣の庭先で柿の実が色づいてきた。優しい甘さばかりか、「赤くなると医者が青くなる」と昔から言われるほど滋養に富んだ旬の味だ▼深まる秋の風景と言えば、緑の茶畑わきでたわわに実る柿色の対照が浮かぶ。茶どころ京都府南部でよく見られ、新茶の大敵の霜よけに加え、柿渋や名産「古老(ころ)柿」作りなど農閑期の副業のためとされる▼さらに茶栽培の「目安」だと、宇治の茶作り名人・故堀井信夫さんに教わった。自慢の玉露を頂きながら、伝統の茶作り70年余の経験や知恵を聞かせてもらった▼柿の木は茶より1週間早く新芽を出す。「雀(すずめ)隠れに簾(す)広げ、烏(からす)隠れに藁(わら)ぶきや」と言い伝えられ、柿の葉で枝の雀が見えなくなると茶園に葦簀(よしず)をかけ、大きな烏も隠れると藁を敷き完全遮光すれば、渋みの少ないうまい茶になるという▼並び育つからこそ気象予報より「確か」と言うのも納得だ。以前は実を全部採らず、木の守りにした「残し柿」をよく見たが、最近は餌を探すクマやサルを人里に誘うからと丸裸にするとも聞く。少し寂しい▼あすは二十四節気の一つで、作物管理に注意を促す「霜降」。かつて堀井さんは、時期が来ると「きょう摘んでくれ」と教える香りがすると話していた。自然が発する知らせや悲鳴に五感を澄ませたい。

[京都新聞 2016年10月22日掲載]

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