凡語 京都新聞トップへ

漱石忌に

 9日は明治の文豪、夏目漱石が亡くなった「漱石忌」。今年はちょうど100年の節目だ。本紙は昨秋から「漱石と歩く京都」を連載していた。しかし執筆者小川後楽さんが急逝し、9月で中断した▼小川流煎茶六代家元の小川さんは、漱石の小説「草枕」に茶味豊かな煎茶の表現があることから、ここ数年、漱石研究に傾注していた。日記類を丹念にあたり、思念をたどった▼連載はその一端で、主に1907年春、朝日新聞社に入社後の京都訪問を独自の見地で追っていた。連載中断に、読者から続きを求める声も寄せられた▼「漱石には新聞記者的視点が強かった」。小川さんが紹介したかったのは漱石の社会に対する批判精神だった。例えば11年に政府が「文芸委員会官制」を発表した折、新聞評論で、国家権力による文芸作品の保護奨励と統制が表裏一体になることの危険性を指摘している▼ここ京都で漱石は、清貧の茶を貫き問答を重ねた売茶翁や勤王の志士ゆかりの地を歩き、社会批判の志を高めたのだろうか。小川さんはその時代性を現代に重ね、「今だからこそ、彼の視点が大切」とも語っていた▼連載を続けていたなら、自らの言葉でそうした主張も展開されただろう。熱い漱石論を、せめてもう少し聞いていればと、今更ながら悔やまれる。

[京都新聞 2016年12月09日掲載]

バックナンバー


凡語 書き写し
 
著作権は京都新聞社に帰属します。
ネットワーク上の著作権について(日本新聞協会)