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骨正月

 鯛(たい)の骨を椀(わん)に入れ、熱々の湯を注ぐ「骨湯」の美味を教えてくれたのは、かつて旅先で出会った魚市場の人だった。歳事を重んじる京でも1月20日の「骨正月」の風習は消えつつあるが、昔は新巻きザケのアラなどを煮た粕(かす)汁を食べて正月気分に区切りをつけた▼魚のプロが集まる築地市場に先週、出張のついでに寄ってみた。水産卸は今も典型的な男社会。けれど実は多くの女性が働くことに、数百の仲卸業者が連なる場内を歩いて気づいた▼売り手と買い手、男性同士のやりとりに店の奥から耳を澄ませ、伝票を書くのは女性の仕事だ。矢継ぎ早の注文は部外者に分からぬよう隠語で伝えられる。聞き違い、書き漏らしは店の信用に関わるから表情はみな真剣だ▼そんな女性従業員、店主の家族ら「帳場さん」が市場の活気を支える。威勢のいい、素早い取引が魚河岸の粋。熟練の帳場さんの存在がなければきっと成り立たない▼そうした貢献には光が当たらないのか、数ある築地ルポや聞き書き本に女性はほとんど登場しない。思えば豊洲移転をめぐって聞こえるのも、都知事を除けば専ら男性の発言である▼昔かたぎの業界も少しずつIT化しているという。手書きの伝票や掛け声もいずれは消えるのだろうか。京都の骨正月、江戸の粋。失うには惜しい。

[京都新聞 2017年01月20日掲載]

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