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嫌煙権

 日本では古来、言葉には魂が宿るとされた。言葉が何らかの影響を与え、現実になると信じられてきた。「嫌煙権」もそんな力を持つ言葉かもしれない▼日照権や環境権からヒントを得た造語だ。約40年前、職場で同僚らの喫煙に悩んでいた女性コピーライターが「禁煙、排煙という喫煙者を追い詰めるような言葉は嫌だった」と提唱した▼当時、駅や飲食店ばかりか病院の待合室にまで灰皿が置かれていた。新幹線の禁煙車は「こだま」の1両だけ。嫌煙権は1980年に旧国鉄などを訴えた禁煙列車訴訟で認知され、受動喫煙防止につながっていく▼たばこの煙は多くの有害物質を含む。吸う人は恐らく納得ずくだろうが、そばでやむなく他人の煙にさらされる方は煙たいだけでは済まない▼厚生労働省の研究班は、日本の受動喫煙による死者が年間約1万5千人に上るとみる。全国で昨年、交通事故で亡くなった3904人の4倍近い。推計であっても毎日40人以上が命を奪われているとは背筋が凍る▼嫌煙が市民権を得たとはいえ、東京五輪などに向けて喫煙対策の不備は否めない。厚労省は法改正を急ぐが、自民党たばこ議員連盟などの抵抗が強い。「吸う権利」もごもっとも。でも吸わされる犠牲を考えるなら嫌煙権とてんびんに掛けるのは愚かしい。

[京都新聞 2017年03月17日掲載]

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